国内乗用車メーカー7社の決算(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
例年ゴールデンウィークが明けると、国内自動車メーカーの通期決算発表会が相次ぐ。業界全体に対しての今年の総評を述べれば、コロナ禍の逆境にもかかわらず、各社奮戦し、期首に懸念されていたような危機に陥ることなく、日本企業の底力を見せつける結果になったと思う。ただし、1社だけ惨憺(さんたん)たる結果のところがある。
四輪の利益率が課題のホンダ
日産とちょっと逆の状態なのがホンダだ。決算の数字は悪くない。売り上げこそ落ちたものの、営業利益も税引前利益率も伸びている。数字で見る限り大成功に見える。
しかし1点、どうしても気になるポイントがある。それが四輪部門の利益率で、今回の資料に二輪と四輪の利益率が別に出て来るのは4Qの資料だけなので、本来は通年で見たいところだが、そこから抜き出す。
- 二輪事業営業利益率:13.7%
- 四輪事業営業利益率:1.6%
ということで、これでは四輪事業がお荷物になってしまっている。それは大変まずい。
ホンダの四輪利益率が低い理由はいろいろあるのだが、やはりその中心にあるのは、コモンアーキテクチャー設計の遅れだと思われる。これに最初に着手したマツダ、そして目覚ましい活用しているトヨタの2社は、まず数理モデルによる燃焼の基本設計をスーパーコンピューターのシミュレーションによって確定させて、そのシミュレーションに合わせて全てのエンジンを設計するようになっている。
しかしホンダはここが遅れている。同じブロックを使うエンジンであろうとも、燃焼を左右する要素をそろえなければ、ゼロから開発するのと同じだ。実際ホンダは規模に対してエンジンのバリエーションが多すぎる。それを合理化しない限り状況は変わらないし、そこを変えるならば、やはりシミュレーション開発を前提にラインアップを組み上げる必要があるだろう。それをやらない限り、コストと開発リソースを無限に食われてしまう。だから、利益が出ない。
ホンダの決算は、数字こそ素晴らしいが、そこに関する新たな取り組みが全く見えてこない。いろいろ聞いてみると、取り組んではいるし、問題意識は持っているようだが、まだ発表の時期ではないらしい。やがてそれらの情報も開示されると思ってはいるが、一方で三部敏宏新社長は、就任会見で内燃機関の完全撤退を発表している、筆者はそれを本意だとは受け取っていないが、今後どうなっていくのかは予断を許さない状況である。
さて、そろそろ十分に長くなってしまったので、続きはまた続編にてお届けしたい。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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