三菱の厳しすぎる現実 国内乗用車メーカー7社の決算(後編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
5月初旬に各社から発表された通期決算の結果を比較してみる本企画、前半ではトヨタ、日産、ホンダの3社を分析した。後編ではスズキ、マツダ、スバル、三菱を分析してみよう。
三菱の厳しすぎる現実
三菱は本当に厳しい。売上高、営業利益、経常利益、当期純利益に加え、販売台数を含めた全指標がマイナス。減収減益決算である。すでに20年3月度のフリーキャッシュフローがマイナス828億円だったものが、21年3月度にはマイナス1788億円と倍以上になっている。読んでいて胸が締め付けられる数字である。
外枠の数字だけでなく詳細を見ていくと、さらに厳しい状況が見えてくる。
まずは「販売台数」の落ち込みだ。この利益への影響がマイナス1360億円。これはコロナ禍ということでまだ情状酌量の余地があるといえばあるのだが、そもそもコロナ禍以前のプラスが128億円しかない。つまりコロナ禍より前から厳しかったことが分かる。そこから落ちているから大変なことになっているわけだ。
「MIX/売価」では少しだけ数字が上向いている。このプラス84億円とは何を意味するか。これはおそらく、アウトランダーが引き上げている。というより、台数の落ち込みと合わせて考えると、アウトランダー以外のモデルが壊滅的なことになった結果、唯一指名買いで単価が高いアウトランダーだけが多少なりとも売れて、その結果MIXが改善されたという理解をするしかないだろう。
次の項目もプラスだ。がしかしこれも喜べない。販売費を切り詰めてプラスを出したということだ。先ほど同様に販売台数の落ち込みの厳しさを見ると、あれだけ売れないにもかかわらず販売費が削減されたということは、すでに販売現場が戦う意思を持てなくなっているのではないか。売れない状況に何らかの作戦を立案し、実行したら、販売費は増加するはずだ。この状況で販売費が減るのはどう考えてもおかしいのだ。
次いでコストである。ここはマイナス。資材費増加と工場経費。本当は防戦するならここだ。もちろん難しいのは理解している。コロナ禍でサプライチェーンが毀損し、原材料も部品も入ってこない。需給が締まれば値上がりするだろう。しかし、台数のダウンを考えれば、普段よりずっと少ない数量で構わないのだ。札束の叩き合いで原材料と部品の分捕り合戦になっている中で、少しだけ回してくれれば良いから、なんとか従来の値段でという交渉ができなかった。
もっとも痛々しいのはここからの2つ。構造改革で356億円のプラス。内容を見ると間接員労務費がトップに来ている。資料では「人員の適正化」と説明しているが、但し書きで書かれているのは「再配置、新規採用抑制、希望退職制度」とあり、さらに報酬制度の見直しも行われている。つまりは前向きとはいえないリストラと給与の削減を意味している。
次いで減価償却費。これは簿価上の資産に見合う利益が長期的にどうやっても上げられないことを認めて、資産の価値を一括で減損処理し、それを特別損失に回している。つまり雑な言い方をすれば利益を生むつもりでした投資のギブアップである。
次の行で研究開発費のプラス189億円が出てくるが、研究開発費が浮いたということは研究開発を部分的に止めたか、削減したということだ。
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