コロナ禍で「銀のさら」絶好調 創業社長が語る“稼ぐ”仕組みとライバルが淘汰された背景:長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/5 ページ)
宅配寿司「銀のさら」が好調だ。創業社長は「ウーバーは脅威ではない」「宅配寿司が宅配ピザより難しい」と熱弁する。どういうことかというと……。
宅配寿司が宅配ピザより難しい理由
宅配寿司はビジネスとして、非常に成り立ちにくい業態だ。
宅配の元祖である宅配ピザは、ピザが当時の日本人になじみが薄い商品であったことを逆手に取り、イタリアの高級イメージを巧みにアピール。1980年代のバブルに向かう日本経済の勢いを背景に、原価に対して非常に高い価格設定で成立した。
「ドミノ・ピザが30分以内に注文品が届かないと無料にする、“30分お届けルール”を定めて話題になったこともあり、狭いエリアにおいても月商600万円くらいで100万円以上の利益を出す店がザラにあった」(江見社長)。当時、宅配ピザの原価率は15〜20%と言われており、一般的な飲食店が30%前後とされるのに比べて、材料費が大変低く抑えられていた。
宅配ピザの成功を目の当たりにし、一時期は宅配ピザを上回るほど、宅配寿司のチェーンが乱立した。
銀のさらがベンチャー・リンクと提携する前、岐阜や名古屋で30店ほどを展開していた頃の原価率は55%だった。
銀のさらの顧客単価は約5400円で、宅配ピザの3000円より2倍近いのは確かだ。しかし、3〜5人前のピザを1枚つくるのにかかる時間は3分。一方、5人前の寿司桶1つをつくるには15〜20分かかってしまう。
「宅配寿司は宅配ピザよりも、原価率が35%も高く、つくるのに人件費が5〜7倍掛かる。それが多くの宅配寿司が消えていった原因」と江見社長は見る。
現在の銀のさらは店舗数が増えたため、仕入れのスケールメリットを生かし、原価率が30%台にまで下がった。300店舗を超える頃から利益が出て上場企業にもなっているが、競合他社の多くは心折れて撤退していった。
チラシをまめにポスティング
シャリにもネタにも一家言あり、寿司に造詣が深い日本人は多い。味にうるさい消費者を納得させる商品を、職人でなく、アルバイトにつくってもらわなければならない。それが難しいのだ。
銀のさらの厨房は極力機械化されているものの、少しの油断が商品の劣化を招く。例えば、シャリ玉はロボットが握ってくれるが、シャリ玉を入れたボックスの蓋をエアコンが回った室内で閉め忘れると、カピカピに乾いたご飯になってしまうリスクがある。
「宅配寿司の作業工程は、誰でもできる簡単な作業の組み合わせなのだが、誰もできないほど徹底しないとおいしい寿司を提供できない」(江見社長)
そうしたマネジメントの仕組みを、ベンチャー・リンクとつくっていった成果が出ている。銀のさらの強さは、期間限定商品を前面に出したチラシのまめなポスティングにもある。江見社長によると「普通は1枚2〜3円の経費であるチラシに、8円くらいかけている」という。寿司をおいしそうに見せる狙いがあり、何回もポスティングされていると、何かの機会にふと注文してみようかとなる人が多い。このようなビジュアル戦略の巧みさも光っている。
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