ネットフリックス通販参入が、「日本のコンテンツ産業衰退」を早めるワケ:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
米ネットフリックスがECサイト「Netflix.shop」をスタートした。身近な話ではないので、「それが何か?」と思われたかもしれないが、筆者の窪田氏はこのことによって「日本のコンテンツ産業が衰退するのではないか」と予測する。どういう意味かというと……。
いい作品をつくるための「原資」
よく言われることだが、日本の映画やドラマの制作費は安い。予算が潤沢と民放からうらやましがられるNHKの大河ドラマは7900万円(2021年度 収支予算と事業計画の説明資料))なので、民放のドラマはそれよりもっと少ないことがうかがえよう。
「数千万もかければ十分だろ」と思うかもしれないが、ネットフリックスはコンテンツ費用に日本円で2兆円程度かけている。人気ドラマになると1本で「億」を超える。これはネットフリックスだけに限った話ではない。例えば、ケーブルテレビで放映されるのでほとんどテレビCMのない韓国ドラマの制作費も、日本のドラマと比べて3〜4倍と言われている。
よく日本のテレビはCMが多いという話になると、「潤沢な制作費をかけて良いドラマなどをタダで見るためにはしょうがない」といったことを言う人がいるが、それは事実ではない。確かに朝から晩まで流れるテレビCMのおかげで、民放の無料視聴はできている。が、そこで捻出されているドラマなどの制作費は他国の「広告を入れないコンテンツ」と比べて高いどころか、逆にかなり低いことになっているのだ。
「いい作品はお金をかければいいってもんじゃない」などという人もいるが、お金をかけて質を高めた作品がやはりそれなりに評価されれば、さらなるいい作品をつくるための「原資」にもなるという好循環があるのも事実だ。
実際、ネットフリックスでは『愛の不時着』『梨泰院クラス』『キングダム』『BLACKPINK〜ライトアップ・ザ・スカイ〜』などが海外でも多く視聴されるなどヒット作となった実績を受けて今年2月、韓国発の作品におよそ520億円を投資すると発表している。
このような形で海外の映画やドラマが「潤沢な制作費→海外市場でも高い評価→さらに多額の製作費」という好循環を生んでいる中で、制作費の少ない日本のドラマがどこまで立ち向かうことができるだろうか。映画『カメラを止めるな!』のように低予算をアイデアでカバーするような作品がいくつか評価されることもあるかもしれないが、言語や文化の異なる人々も面白いと思わせるようなものを継続して送り出せるだろうか。
現実問題として、かなり難しいのではないか。
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