ジョブ型雇用のために、人事部門に求められる自己改革:いまさら聞けないジョブ型雇用(6/7 ページ)
ジョブ型雇用を日本企業で確実に根付かせていくためには、まず人事部門が変わらなければいけないことを説明します。
近年、BP(Business Partner)という言葉をよく聞くようになりました。各事業部門、機能部門の側に寄り添い、彼らの人事ニーズと課題を把握して、各種の解決策を提供する役割を持った人事パーソンをHR BPと呼んでいます。
そもそも、このBPという役割は、欧米のグローバル企業から生まれてきたものです。もともと、彼らは分権型の経営体制を取っており、各部門が主たる裁量権を有しています。権限を持っているということは、責任の裏返しなので、各部門には明確で逃げられない売上責任や利益責任が求められます。その反面で、それらの責任を全うするために、例えば人事に関していえば、人材の採用や配置などを各部門が主導的に決められるのです。従って、各部門が基本的な人事機能を必要とし、これをBPと名付けていました。
日本でも、規模が大きな企業には「部門人事」というものが昔から存在しています。本社人事との対比で、部門人事と呼ばれていますが、基本的な役割は本社人事の出先機関ともいうべきものです。人事部門が、各部門との調整を実施するために、部門側に近いところへ置いているのが部門人事です。ですので、彼らの所属はあくまで人事部門であり、本社人事の意をくんで動き、立ち回ります。
これに対して、BPは部門側のインサイダーで、各部門の意向に従って、部門利益を最大化するために動きます。そこに、両者の根本的な違いがあります。部門人事とBPとは似て非なるものなのです。
BPが己の責務を全うするには、何より部門の事業や機能に対する深い理解が必要です。極めて当たり前に聞こえるかもしれませんが、日本企業の人事パーソンには、自社の事業に対する理解が欠けていることが少なくありません。取りまとめと調整の役回りを演じてきたため、事業を深く知る必要がなかったのです。しかし、それではBPは全く務まりません。
また、BPには幅広い人事関連のソリューションを提供する力が大事になります。多くの日本企業では、人事部門内が専門分化しています。評価、報酬、採用、育成、労務といった機能単位で担当が分かれ、各人が担当分野の専門性を高めるべく働いています。
ところが、こうした従来の人事パーソンのように、ある分野の専門家というだけでは、BPとして価値を発揮するのは困難です。各部門トップの人事参謀たるBPは、さまざまな課題に直面することになります。あるときは人材の採用、あるときは評価や処遇といった具合に、組織と人事に関して幅広い解決策を提示する能力が求められるのです。人事の専門家ではなく、部門に密着した人事コンサルタントでなければなりません。
人事部門の体制変革
以上、BPに着目して人事部門の体制について話してきましたが、変化が必要なのは何もBPだけに限りません。人事全体の戦略機能も、さらに強化する必要があります。
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