10年で116万台減少! 「世界一の自販機大国ニッポン」はなぜ衰退したのか:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
「日本は世界一の自販機大国」という話を聞いたことがあるが、本当にそうなのか。一人当たりの台数は世界一だが、機能面でいえば世界の潮流から遅れているようで……。
このままではジリ貧
こうして、日本ではIoTによるスマート化も飲料自販機に限定された。多様性を欠いたマーケットで、多種多様なビジネスが生まれるわけがない。つまり、日本がスマート自販機という世界の流れに取り残されたのは必然だったのだ。
では、なぜ日本では食品自販機のジャンルがまったく育たなかったのか。いろいろなご意見があるだろうが、これもやはり「コンビニ」ではないか。
24時間営業のコンビニでおにぎりや弁当が買えることが当たり前のこの国で、「無人の販売機で、サラダやラーメンが変えたら便利だな」という発想はなかなか生まれづらい。
よく言われるが、日本のコンビニの接客は「世界一」だ。最新鋭のスマート自販機でも「温めますか?」「箸つけますか?」なんて聞いて、客の顔色はうかがってくれない。つまり、日本では皮肉なことに、コンビニの「人力サービス」の便利さや心地良さが、自販機のイノベーションをはばんでしまっていたのだ。
とはいえ、悪い話ばかりではない。食品自販機がわずか1.7%のシェアしかなく、スマート自販機も諸外国からかなり遅れていることは裏を返せば、この分野はすさまじい伸び代のある「超成長産業」でもあるのだ。
日本の観光業は諸外国に比べて整備が進んでおらず、長く斜陽産業と言われてきたが、13年からの国の観光立国戦略の推進によって今では基幹産業にまで成長した。それと同じで、これまでほとんど開拓されていない食品自販機市場は大きなポテンシャルを秘めているのだ。
飲料自販機市場はもはや頭打ちで、飲料メーカーの多くは国内市場に見切りをつけて海外を目指しているが、食品自販機市場に関しては、開拓しがいのある超ブルーオーシャンだ。ヨーカイ・エクスプレスのような海外フードテック企業が日本上陸をして来たのが、その証左である。
「食品自販機界のワークマン」なんて呼ばれる急成長企業が、メディアをにぎわせる日もそう遠くないのかもしれない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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