トヨタは「人間の顔をした会社」に変われるか? 「パワハラ再発防止策」を読み解く:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)
2017年、トヨタ自動車で男性社員が上司のパワハラにより自殺に追い込まれる事件があった。これを受けトヨタは「再発防止策」を発表し、「風通しの良い職場風土を築くよう努力を続ける」とコメントした。この再発防止策を読み解きながら、トヨタの取り組みが今後の手本になりうるか──期待できる点や欠けている点を考える。
報道によれば、豊田章男社長は男性の労災認定が報じられた19年11月と今年4月の計2回、遺族と直接面会し、陳謝した上で、「(再発防止の)仕組みは作ったが完成ではなく、改善を続ける。二度とこうしたことを起こさせない」と述べたそうです。
パワハラ問題はこれまでも繰り返し書き続けていますが、パワハラは個人の問題ではなく「組織」の問題です。「組織的なパワハラ」であることをトップ自身が認め、組織改革を実行しない限り、パワハラは繰り返されます。それは「人」の軽視であり、カネと株価しか見ないトップが「人の命」を軽んじた末の愚行です。
冒頭の奥田氏は「リストラするなら経営者は腹を切れ」との名言を残しました。そのトヨタで、パワハラが繰り返し行われていたという事実は、極めて残念なことです。
しかし、今回豊田社長が自ら率先して防止策に乗り出し、「二度とこうしたことを起こさない」と遺族に約束したことは、生半可な気持ちでできることではありません。「絶対に変える」という覚悟を感じますし、後を絶たないパワハラ問題に「新しい風」をなることを期待したいと、個人的には思っています。願いも込めて。
一方で「パワハラと指導の境目が分からない」「部下を育てるのが難しい時代になってしまった」と嘆くトップが多いのも事実です。
私自身は、「パワハラがなくなれば会社や社員が元気になるのではない。会社も社員も元気な会社にはパワハラはない」が持論です。つまり、パワハラをなくすことと、社員のパフォーマンスを引き上げることは、全くの同義です。
そこで今回は、トヨタが公表したパワハラ対策の良い点と欠けている点から、「元気な会社」について考えてみようと思います。
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