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トヨタは「人間の顔をした会社」に変われるか? 「パワハラ再発防止策」を読み解く:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/4 ページ)
2017年、トヨタ自動車で男性社員が上司のパワハラにより自殺に追い込まれる事件があった。これを受けトヨタは「再発防止策」を発表し、「風通しの良い職場風土を築くよう努力を続ける」とコメントした。この再発防止策を読み解きながら、トヨタの取り組みが今後の手本になりうるか──期待できる点や欠けている点を考える。
具体的な「再発防止に向けた取り組み」は以下の通りです(以下、抜粋し要約。全文はこちらから)。
1.声を出しやすい職場作りに向けた取り組み
- 「相談窓口」への匿名での通報、同僚や家族など第三者からの相談も受け付ける
- 若手社員に対する毎月のアンケートの実施、職場に相談員を設置
2.パワハラに対する厳格な姿勢を就業規則に反映
- 就業規則に、「パワハラの禁止」および「パワハラを行った際の懲罰規定」を明記
3.異動時における評価情報の引継ぎの強化
- 従業員の評価などの個人情報を一元管理。過去の評価や人事情報を確認できる
- 適性を踏まえた業務アサイン、過去から一貫性のある育成の実施
4.マネジメントに対するパワハラの意識啓発
- 幹部職・基幹職を対象に、パワハラ防止の教育を再度実施
- 「人間力」のある人材、周囲へ好影響を与え信頼される力を持つ人を評価
- 役員、 幹部職・基幹職を対象に、360度アンケートを導入。本人にフィードバックすることで、自らの行動を振り返り、改善につなげる
5.休務者の職場復職プロセスの見直し
- 休務者の状況把握、復職可否判断、職場復帰後の職場環境面を含むケアについて、産業医、人事労務スタッフ・職場がこれまで以上に緊密に連携する
- 精神科専門医が常駐する相談センターを開設。対面又はオンラインによって、メンタル不調者や上司との面談を実施し、産業医に専門的立場からのアドバイスを提供
さて、いかがでしょうか。
この取り組みは一言でいえば、「被害者が声をあげやすい環境づくり」と「加害者にならないための教育」の実践です。これはパワハラを生む悪しき状況を「変えること」につながるでしょうか?
結論からいえば、社員一人一人がトップと共に、「変えよう」と努力すれば変わります。「同僚」が積極的に相談し (上記1)、アンケートに本心で答え(同1、4)、自ら改善する努力(同4)をすれば、パワハラに涙する社員を減らすことは十分可能です。そういった意味では、とても有意義な対策だと思います。
しかし、この取り組みを実践しただけでは、「全ての社員が生き生きと元気に働く職場」になりません。
パワハラを警戒するあまり、
- 言ってはいけないと自分で決めつけたり、
- 言いたいことを言えなかったり、
- 聞きたいことを聞けなかったり、
- 話しかけることを意識的に止めてしまったり
……といった空気が職場にできてしまうと、高い志も熱意もなえ、成長も実感できないし、生産性も向上しません。
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