トヨタは「人間の顔をした会社」に変われるか? 「パワハラ再発防止策」を読み解く:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
2017年、トヨタ自動車で男性社員が上司のパワハラにより自殺に追い込まれる事件があった。これを受けトヨタは「再発防止策」を発表し、「風通しの良い職場風土を築くよう努力を続ける」とコメントした。この再発防止策を読み解きながら、トヨタの取り組みが今後の手本になりうるか──期待できる点や欠けている点を考える。
そもそも「言葉」は人を傷つけるためにあるわけじゃない。互いに分かり合い、互いを知り、共同体(=職場)で居場所を得て、よりハッピーになるために存在します。
つまり、パワハラ対策と同時並行で、全ての社員が、「自分のマイナスになるかもしれないことでも言える職場」「言いたいことが言えるチーム」づくりを進めることが必要なのです。
「こんなことを言ったら上司に叱られるのではないか?」
「こんな意見では同僚からばかにされるんじゃないか?」
「もっと立派なことを言わなきゃいけないんじゃないか?」
……といった不安をチームメンバーが抱かない空気を職場に作る。
これこそが「風通しの良い職場」であり、「全ての社員が生き生きと元気に働く職場」です。
もっとも、トヨタは「再発防止に向けた取り組み」を掲載したWebサイトの冒頭に、「一人一人の社員が安心して働ける、風通しの良い職場風土を築くよう、努力を続けてまいります」としているので、すでに風通しのいい職場づくりに励んできた、ということなのかもしれません。
しかし、今回の再発防止策は本当に十分なのでしょうか。例えば、「若手社員に対する毎月のアンケートの実施」(上記1)で十分なのでしょうか? 「全社員」に実施すべきではないでしょうか。「適性を踏まえた業務アサイン、過去から一貫性のある育成の実施」(上記3)だけでは、能力発揮の機会の喪失になる可能性もあります。
「不得意だと思っていたこと」「嫌いだと思っていたこと」などをやることで、自分でも気付かなかった「能力」が発揮されることは往々にあります。「適正がない」と信じているタスクに携わることで、「化ける人」だっているのです。
トヨタの再発防止策が効果を発揮するか否かは、多くのメディアが注目し、「他の企業の手本になるかもしれない」と期待されています。
なんといっても「世界のトヨタ」です! だからこそ余計に、「全ての社員が生き生きと元気に働く職場も目指しているんだな」と分かる具体的な対策も盛り込んでほしかった。
いずれにせよ、今後5年間、男性社員の遺族に再発防止の取り組み状況を報告するとトヨタは約束し、遺族は代理人を通じて「トヨタが本当に変わったといえるのか今後も注視したい」とコメントしています。
トヨタが「強い企業」だけではなく、「全ての社員が生き生きとしている企業」として、日本の象徴となることに、私自身、期待したいと思います。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。
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