「格差の是正」へ舵 経産省の“画期的”提言が「コロナ禍で生まれた希望」といえるワケ:「緊縮財政」路線からの転換点(6/6 ページ)
長引くコロナ禍によって多くの人が疲弊するなか、一筋の希望の光ともいえるような変化があったことを共有したい。経済産業省が「経済産業政策の新機軸」という資料を発表した。これまでは経産省といえば、グローバル化や構造改革を推進してきた印象を持つが、今回の提唱内容は今までの戦略とは一線を画す内容となっている。
税の機能を格差の是正に用いるべき
ビジネスの世界は弱肉強食であり、どんどん構造改革を進めて競争を激しくさせて効率化を進めていき、どんどん世界で戦っていく。その際に政府は余計な介入をせずに、とにかく規制緩和をすればいい。どうだろうか? 自己責任、グローバル、自由競争。かっこいい言葉が並んでいる。
しかし、主要先進国を筆頭に世界は変化をしつつある。日本のように低インフレ、超低金利の環境下においては、たとえ財政赤字であろうと積極的に財政出動をして需要不足を回復し、マイルドなインフレ(高圧経済)を実現する。それによって、民間投資を促し、長期の成長を実現していくべきということを考え始めている。
そんなことをしたら財源が必要なんだから増税しなくてはいけない、と思うかもしれないが、そもそも税の機能を財源ではなく格差の是正などに用いるべきだということだ。資本主義社会において、経済活動が続けば自然と格差は拡大していく。それは仕方のないことだ。そこで、所得税の累進課税制度のように、資産家から多く税をとり、富の再配分を行うということだ。
前出の経済産業省が提唱する新機軸においては、このような世界水準の新しい財政政策が提案されているのだ。これまで緊縮財政に基づいた政策をとり続けてきた日本においてはパラダイムシフトが起きるキッカケになりうる。
総じてみれば新型コロナウイルスの感染拡大は経済だけでなく私たちの生活に悪影響を与えた。だが、緊縮思考に凝り固まった政策決定機関に経産省がこのような提唱を投げかけた事実はコロナ禍における数少ない希望の光といえるのではなかろうか。
著者プロフィール
森永康平(もりなが こうへい)
株式会社マネネCEO / 経済アナリスト。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。その後はインドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて法人や新規事業を立ち上げ、各社のCEOおよび取締役を歴任。現在はキャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOも兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員。著書に『MMTが日本を救う』(新書/宝島社)や、父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(新書/ KADOKAWA)がある。 Twitter:@KoheiMorinaga。
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