オンキヨーの衰退、“経営陣だけ”を責められないワケ 特異すぎる日本のオーディオ市場:本田雅一の時事想々(4/5 ページ)
オンキヨーがホームAV事業を手放す。この衰退を招いたのは近視眼的で戦略性のない経営だと筆者は指摘するが、経営陣だけを責める気にはならないという。なぜかというと……?
オンキヨーが2005年にe-Onkyoを開始したと書いたが、グローバルではそれ以前からハイレゾ音源のダウンロード販売が始まり、英LINN ProductsのKlimax DSが登場するとさまざまな形でダウンロード、あるいはディスクからリッピングした音楽データを家庭内LANで共有して再生するネットワークオーディオ市場が拡大した。
CDなど物理メディアのフォーマットに左右されないこともあり、多様な形式のデジタルファイルが流通可能になったこともオーディオファンをひきつけた理由だったが、このときはまず音楽プレーヤーがネットワーク対応となり、次にコントロールアンプやAVアンプに再生機能が内蔵されるようになった。
そして音楽ストリーミングサービスが隆盛し始め、ハイレゾ音源もストリーミングされるようになると、さらに製品トレンドは変化し始める。すでにカジュアルなスピーカー市場は大きく変化し、ほぼ全てがパワーアンプを内蔵するアクティブスピーカーとなった。
加えてワイヤレススピーカーが単なるBluetoothなどを通じた無線というだけではなく、それ自身が音楽再生を行う能力を持つスマートスピーカーへと進化。日本では音声操作が主に注目されるが、海外では後述するが高音質を狙ったスマートスピーカーも数多くある。
Futuresourse Consultingが20年に調査した数字によると、米国では音楽ストリーミングサービスの加入者数が7600万人に対し、スマートスピーカーは6090万台が稼働しているという。ところが日本では1900万人の音楽ストリーミングサービス加入者がいるのに対し、スマートスピーカーの稼働台数はわずか50万台にすぎない。
欧州を見ても、英国、ドイツ、フランスなどは一様にストリーミングサービス加入者に対するスマートスピーカーの数という面で米国に近い状況にある。
言い換えればそれだけ、Wi-Fiを通じて音楽ストリーミングサービスに接続可能なスピーカー市場の伸び代があるということだ。日本は音楽ストリーミングサービスの普及が比較的遅かった(CD市場が粘り強く残っていた)国ではあるが、それも過去の話。音楽の楽しみ方が変われば、音楽を聴く装置にも変化が求められる。
もちろん、こうした調査結果は日本の住宅事情などから、スマートフォンなどを通じて個人的にイヤフォンやヘッドフォンで楽しむ人たちが多いからという説明もできる。しかし、海外では高級オーディオの世界にもこの流れが広がってきている。
本当の意味でのガラパゴス化が進む
ハイエンドオーディオの世界にネットワーク機能を持ち込み成功させたLINNの事例を紹介したが、彼らはダウンロードやリッピングのファイルを高音質に再生する「DS」機能に順次、ストリーミング音楽の再生機能を追加してきた。
現在はコントロールアンプ機能なども内蔵する「DSM」というタイプのモジュールが主力だが、スピーカーにDSM機能とパワーアンプを統合した製品も投入しており、他コンポーネントを必要とせず、スピーカー単独で再生できるシステムも提案している。
同様のアプローチは英KEFの製品にも見られる。
小型で手頃な価格のKEF LSXは音楽再生機能を持つインテリジェントな高品位スピーカーとしてお手本のような仕上がりだ。KEFはこのシステムをグレードアップし、LS50 Wireless IIという製品に組み込んでいるが、現時点でApple Musicを除く大抵のストリーミングサービスに対応し、家庭内LANを通じた音楽再生でもほとんど再生できないフォーマットがない。
それでいてスピーカーシステムとしての実力は極めて高い。実はこうした製品は特に欧州で増加している。しかし急に増えたわけではない。
日本以外では、そもそもの状況としてアンプを内蔵するアクティブスピーカーが高級オーディオの世界でも増加していた。理由や背景については省略するが、そうした流れの中でLINNのDSシステムのようなネットワーク対応機能を内蔵させることでシステムをシンプルにする動きがありと、少しずつ製品の形が変化してきていたのだ。
音楽を楽しむ手段は、物理メディアからダウンロードファイルへと少しずつ変化し、さらにストリーミングになっていく中で、いよいよ物理メディアを使う機会がなくなり、大多数はストリーミングで音楽を聴いているのが現在。ならば、機能がスピーカーへと収斂(しゅうれん)してくるのは自然な流れだ。
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