“鉄道観光ビジネス”再起動、失われた2年間をどう取り戻すのか:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(10/10 ページ)
沖縄県を除く緊急事態宣言解除、新型コロナウイルスワクチン接種の進ちょくを見越して、鉄道旅行ビジネスが活気づいてきた。冷え切った観光需要を「元通り」にするには、「元通り」の商品展開では足りない。そこで「工場夜景ツアー」「観光急行列車」「おみやげ品割引」など、注目の事例を紹介しつつ、今後の新施策に期待したい。
知恵と手間をかけたサービスに期待
えちごトキめき鉄道の急行電車は長期構想による列車で、車両の整備費などに費用が掛かっている。新車導入よりは低コストだけど、運行開始がこの時期になり、集客を期待していることだろう。
そのほかの企画は大型資金を投入していない。既存の設備を使い、新たなコース設定、きっぷの名前を変えて付加価値をつける。地域の事業者と連携する。アイデアと丁寧な交渉の結果として作られた商品だ。
本稿執筆中にもJR北海道、JAL、JTBが連携する「HOKKAIDO LOVE! ひとめぐり号」(PDF)が発表された。観光車両「ラベンダー編成」「はまなす編成」を使って道内を周遊する列車で、実施時期は10月。国内のほとんどの人々がワクチンを2回接種して2週間を経過した頃合いだ。
しかも、運が良ければ北海道の紅葉シーズンに当たる。北海道は日本で最も早く紅葉を楽しめる。ただし時期は短く、さらに今年は桜の開花が2週間ほど早いなど、季節感が繰り上がっている。3社が運を持っていれば素晴しい紅葉旅になるだろう。
業績が不振で新たな費用を捻出しにくい中で、知恵と手間をかけたユニークな展開が始まった。それでも「苦肉の策」という貧乏くささを出さないところが見事だ。
鉄道業界、旅行業界のアイデア博覧会のようでもある。失われた2年間を取り戻すだけではない。もっと楽しい旅の時代を作っていく。そんな心意気が見えてうれしい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
関連記事
- 鉄道模型は「走らせる」に商機 好調なプラモデル市場、新たに生まれた“レジャー需要”
巣ごもりでプラモデルがブームに。鉄道模型の分野では、走らせる場を提供する「レンタルレイアウト」という業態が増えている。ビジネスとしては、空きビルが出やすい今、さらなる普及の可能性がある。「モノの消費」から「サービスの消費」へのシフトに注目だ。 - 運賃「往復1万円」はアリか? 世界基準で見直す“富士山を登る鉄道”の価値
富士山登山鉄道構想について、運賃収入年間約300億円、運賃は往復1万円という試算が示された。LRTなどが検討されている。現在の富士スバルラインと比べると5倍の運賃はアリなのか。国内外の山岳観光鉄道を見ると、決して高くない。富士山の価値を認識する良いきっかけになる。 - JR九州の新型観光列車「36ぷらす3」の“短所を生かす”工夫 都市間移動を楽しくする仕掛けとは
JR九州の新型観光列車「36ぷらす3」に試乗した。観光列車先駆者である同社の新型車両は、車窓を楽しむ列車ではない。窓が小さく、景色を見せられない分、車内でのおもてなしに力を入れている。観光都市間を移動する空間を楽しくする、これまでとは違う列車だ。 - 観光列車は“ミッドレンジ価格帯”の時代に? 新登場「WEST EXPRESS 銀河」「36ぷらす3」の戦略
JR西日本は夜行観光列車「WEST EXPRESS 銀河」の運行を開始、JR九州も昼行観光列車「36ぷらす3」を運行開始予定だ。それぞれに旅客をひきつける特長がある。価格帯はミッドレンジ。ローエンドの価格の観光列車が多い中、中価格帯の試金石となりそうだ。 - ローカル鉄道40社を訪ねる「鉄印帳」が大ヒット 「集めたい」心を捉える仕掛け
第三セクター鉄道40社が参加する「鉄印帳」が好調だ。初版は各社ですぐに完売した。「Go To トラベルキャンペーン」よりも旅人の背中を押す仕掛けだ。鉄道では“集める”イベントが多く、人気も高い。成功する施策は、趣味の本質を捉えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.