「トップセールスに頼りすぎ」 駅で気絶するまで働いた元モーレツ営業マンが挑む、“営業プロセスの再構築”:ここが変だよ! 日本の営業(3/3 ページ)
「日本の営業は、トップセールスの一子相伝となっていることが多い」──そう話すのは、営業・マーケティング組織作りの支援などを行うUNITE(東京都港区)の代表取締役社長、上田啓太さんだ。働き過ぎて駅で倒れた経験もあるという上田さんは、自身のキャリアから、日本の営業組織がどのように変わるべきだと考えているのか。話を聞いた。
営業組織も「健康診断」が必要だ
このようなプロセスは、一度作ったら終わりではない。顧客と初めて接点を持ってから、商談を重ね、受注もしくは失注に至るまでのフローに異常がないか、定期的に確認する必要がある。これを上田さんは「健康診断のようなもの」と例える。
自社が健康かどうかの確認は、専門書などでフレームワークを学ぶことで実施できる。しかし、そのスピード感や確からしさに不安を覚えるようだったら、「当社をはじめとする専門企業に相談するのが良いのではないか」と話す。
実際にUNITEでは、顧客企業の営業プロセスの構築を行い、組織作りを支援するだけでなく、その後の「健康診断」にあたる、プロセスの確認サービスも設けているという。
この一連の活動を、UNITEでは「セールスプロセス・リエンジニアリング」(=営業プロセスの再構築)と名付けている。
「営業の話を聞いてから考えよう」は過去の話
近年、営業を取り巻く環境は、急速に変化している。
上田さんは「インターネット上に情報が充実したことで、お客さんが問い合わせをする時点で、もうほとんど使う企業を決めている、ということが増えてきました。特に昨今は、コロナの影響もあって、『営業の話を聞いてから考えよう』という意識はさらに減ってきています」と説明する。
では、これから選ばれる営業になるにはどうしたらいいのか。それは、顧客が「見えている課題」だけではなく、「見えていない課題」を見つけて提案できる営業になることだ。
見えている課題に対して、各社が解決策を提示すると、似たり寄ったりの提案になる。すると、その後は価格での比較になる。こうしていると、提供する製品やサービスの価値が上がらない。しかし、顧客の見えていない課題を指摘して、「この手段で解決した方が良い」と提案ができれば、製品を売るだけの人間ではなく、顧客のパートナーとして価値が提供できる。
これからの社会では、そのように「営業が二分化されるのではないか」と上田さんは話す。後者のような営業をするためにも、顧客の情報を分析し、商談を管理する営業プロセスを緻密に設計することは、重要だと考えられる。
「ワガママに生きる」ための“資格”と“業務ツール”を作る
上田さんはUNITEの今後について「今年はインサイドセールスの組織作りで、成功事例を多く生み出していきたいです」と話す。
「その後にやりたいことは、2つあります。1つ目は、営業プロセスを作るというプロジェクトの成功確率を引き上げるためのノウハウを確立し、“プロセスマネジメント”の資格制度を作りたいと考えています。営業のプロセスマネジャーになれる人材を輩出すると同時に、この資格を持っていればこれだけのことができる、という指標を作れたらと考えています。そうすることで提供できる価値が定まり、『短い時間でどこでも働けて高い報酬を得る人』を増やしていけると考えています。
2つ目は、営業プロセスを再構築する際に必要になる、業務ツールを作ることです。顧客の課題を解決できるプロダクトが世の中にない場合は自分たちで作ることになります」
この2つの展望は、UNITEが創業時に掲げた「『ワガママに生きる』を当たり前にする」というミッションを実現するためにある。上田さんは、営業マンとして駅のホームで気絶するまで働いた経験などから、「営業プロセスをきちんと構築して、売り上げを高めて、精神面と時間にゆとりを持って働ける組織を増やしたい」と考えたという。それがすなわち、営業マンが「ワガママに生きる」ことができる組織だ。
また、営業マンのキャリアの行く先の選択肢の少なさも課題に感じていた。営業という仕事を突き詰めた人の全員が「営業部長」になりたいわけではない。しかし、多くの組織には営業部長以外の、“先のキャリア”がないことが多い。「営業のプロフェッショナルとは何か」と考え、資格制度の発想にたどり着いた。
まだまだ非合理な状態の営業組織も多い日本だが、このように変革を生む動きも始まっている。生産性向上が求められる社会で、日本の営業組織がどこまで変われるか、真価が問われるタイミングが訪れているのだろう。
関連記事
- マーケティング不在は“地獄”──リードを軽んじる企業が、インサイドセールスの立ち上げに失敗する理由
コロナ禍をきっかけに、インサイドセールスを立ち上げる企業が増えた。その際、リードを獲得するマーケティング組織が充実していないと、失敗するという。その理由を、筆者の実体験をもとに解説する。 - 「売り上げが落ちてもいいから、残業をゼロにせよ。やり方は任せる」 社長の“突然の宣言”に、現場はどうしたのか
「来年度の目標は、残業時間ゼロ」──社長の突然の宣言は、まさに寝耳に水の出来事だった。準備期間は1カ月。取り組み方は、各部門に任せられた。現場はどう対応したのか? - NEC、りそな、パーソル──“息切れしない”企業改革、大手3社に共通する「ヒト投資」
働き方改革、リモートワーク、DX化、インクルージョン&ダイバーシティ――変化の速い事業環境の中で、企業が取り組むべき課題は山積状態。疲弊して歩みを止めることなく、会社の活力を生み出すためにはどうすればいいのか。少なくない企業が、「ヒト投資」という答えに活路を見い出している。大手3社に、その施策を聞いた。 - 新卒応募が57人→2000人以上に! 土屋鞄“次世代人事”のSNS活用×ファン作り
コロナ禍で採用活動に苦戦する企業も多い中、土屋鞄製造所の新卒採用が好調だ。2020年卒はたった57人の応募だったが、21年卒は2000人以上が応募と、エントリー数が約40倍に急増した。その秘訣を聞いた。 - 黒船来航! 「ゴロゴロしながら英語が学べる」アプリが、わずか7カ月で新規DL数を2.5倍に伸ばしたワケ
「ゴロゴロしながら英語が学べる」語学学習アプリ、Duollingo。世界で多くの人が活用しているが、日本版の担当者は1人のみ。2020年8月に着任した、Duolingo Japan Country Manager 水谷翔氏だ。そんな中でも、水谷氏が主導するマーケティング活動により、わずか7カ月で新規ダウンロード数は2.5倍に増えたという。詳しい話を聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.