「ジョブ型」雇用に恐れる必要はあるのか 「賃金」が上がるかもしれない理由:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
コロナ危機をきっかけに、日本型雇用の見直しが進もうとしている。終身雇用が保障されて、会社の中は「管理職だらけ」といったケースが多いかもしれないが、ジョブ型雇用になればどのような働き方が増えるのか。不安を感じるかもしれないが……。
ジョブ型のほうが結局は賃金は上昇する
終身雇用が保証されないと失業するリスクは高まるが、社会全体として転職が多いのなら、人材を放出する企業がある一方で、新規に雇用する企業も出てくる。幸いなことに、日本は今後も人口減少と高齢化が続くので、人手不足はより深刻化する。求人に対して労働者が少ない状況なので、相対的には労働者に有利な状況が続くだろう。
唯一の心配は自身のスキルが陳腐化することであり、いわゆるジョブ型の社会になった場合には、自身のキャリアやスキルについて漫然と構えることはできなくなる。だが、いくらITが発達するといっても、営業や経理、マーケティングという根本的なスキルや知識が不要になるわけではない。
IT化が進めば、既存のスキルに加えてITについての知識も身につける必要があるが、こうした最低限のキャッチアップさえしていれば、仕事は必ず見つかり、タダ働きなどする必要がない社会のほうが、多くのビジネスパーソンにとって幸せではないだろうか。
しかもジョブ型の雇用が進めば、実は賃金もアップする可能性が高い。業務に対して賃金を支払う場合、企業は過剰に社員を雇用することはしなくなる。賃金の原資が同額である場合、社員数は減るので1人当たりの賃金は上昇する可能性が高い。
余剰な社員が市場に出てくれば、別な企業がその社員を雇って新しい事業をスタートするので、全体の賃金も増えていく。努力を一切せず、何もしないで机に座り、給料を受け取ることだけが目的の人には嫌な社会かもしれないが、それ以外の健全なビジネスパーソンにとって新しい雇用制度はむしろウェルカムなはずだ。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。
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