定期代が上がる!? 鉄道の“変動運賃制度”が検討開始、利用者負担は:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/6 ページ)
鉄道で「変動運賃制度」の検討が開始された。そもそも、通勤通学定期券によるボリュームディスカウントは必要だったのか。鉄道会社の費用と収益のバランスが、コロナ禍による乗客減少で崩れてしまったいま、改めて考えてみたい。
上限規制緩和こそ、真のダイナミックプライシング
「第2次交通政策基本計画」に盛り込まれた「ダイナミックプライシング」とは、この上限規制の緩和、もしくは撤廃を議論するという意味だ。
現在の上限運賃制度は「基準コスト+適正利益」で算出している。基準コストの算定方法を変えるか、適正利益を増やすなどで、上限運賃引き上げとして制度を残すか、いっそ上限運賃を撤廃し、航空運賃同様に鉄道運賃も完全に許可制にするか、という議論が始まるだろう。
また、鉄道事業者がダイナミックプライシングをどのように取り入れていくかも興味深い。変動運賃制になれば、自動改札を通過した時刻で運賃が変わる。混雑時間帯定期券、閑散時間帯定期券の価格体系になるだろう。一般運賃も高速道路のETCとチケットのように、IC乗車券には変動運賃で閑散時間帯を安く設定するけれども、紙の切符は全ての時間帯で割引なしという施策もできる。
現在も日中用だけ多く発行される回数券がある。ただし回数券そのものを廃止する動きがある。回数券の廃止はダイナミックプライシングとは関係なく、実質的な値上げ施策といえそうだ。いや、すでに「ボリュームディスカウントには意味がない」と気付いてしまったかもしれない。
次の課題は会社側、通勤手当を支給する側の施策だ。定期券が「ピーク用」「オフピーク用」で値段が変わった時に、従業員にどちらを支給するか。完全にシフト交代制でなければ「ピーク出勤社員」「オフピーク出勤社員」の区別は難しいだろう。
テレワークが普及し、定期代支給を辞めた企業もあるという。もしかしたら、鉄道側では廃止される「上限規制」が、企業側では「上限通勤手当」として採用されるかもしれない。「通勤手当に上限を設定し、従業員はその範囲内で出勤せよ、超過分は申請または自己負担」というように。
通勤定期が高くなったら、ますますテレワークが普及するかもしれない。変動運賃制度の導入は通勤のあり方も変えてしまいそうだ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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