定期代が上がる!? 鉄道の“変動運賃制度”が検討開始、利用者負担は:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)
鉄道で「変動運賃制度」の検討が開始された。そもそも、通勤通学定期券によるボリュームディスカウントは必要だったのか。鉄道会社の費用と収益のバランスが、コロナ禍による乗客減少で崩れてしまったいま、改めて考えてみたい。
現在も変動運賃は可能
上限認可制度では、あらかじめ国から上限運賃の認可を受けていれば、その範囲内で運賃を決めて届け出れば良いことになった。例えば上限運賃を500円と設定した区間であれば、当初は300円で営業してもいいし、上限の500円までは届出だけで値上げできる。
しかし、鉄道事業者は上限運賃を自由に決められない。国はJR旅客会社、大手民鉄、地下鉄、それぞれの業態で複数の事業者の実態を元に「基準コスト」を算定している。それに加えて、「適切な利益の範囲内」の上乗せしか認められない。
一方、入場料金、特急料金などの「料金」については、鉄道事業者が任意の上限を届け出て許可を得ればいい。ただし、運賃、料金とも、国土交通大臣が不適切と判断した場合は、是正処置が取られる。
変動運賃制度(ダイナミックプライシング)については、航空運賃やホテルの料金が引き合いに出される。混雑日には運賃や宿泊料金が高くなり、閑散期には安くなる。
鉄道にはその制度がない、という報道もあったけれども、それは正確ではない。JRの特急料金も閑散期は安く、繁忙期は高い。スマートEXやEチケットなど、運賃込みで時間帯別料金を設定する事例もある。
ただしそれは、最も高い運賃と料金で上限を設定し、認可を受けた範囲内で価格を操作している。航空運賃に上限はないけれど、過剰であれば国土交通大臣から是正命令を出せる。
鉄道もダイナミックプライシングはできる。ただし、上限運賃が決まっており、多くの事業者で運賃は上限いっぱいの運賃や料金を設定しているから、実質的に割引しか施策がない。値上げの余地があるとすれば定期券の割引率を下げる程度で、これも上限運賃を超えられない。
上限運賃を算定するための「基準コスト」。「ヤードスティック方式」の部分が同業他社との水準と比較される。過度なコスト上乗せを防ぐ仕組みだ(出典:国土交通省「JR旅客会社、大手民鉄及び地下鉄事業者の基準単価・基準コスト等の公表について」)
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