電動キックボードは日本の交通に馴染むのか:高根英幸 「クルマのミライ」(3/4 ページ)
電動キックボードの実証実験が、全国の何カ所かの都市で始まっている。電動キックボード自体は、保安部品を装備して登録しヘルメットを被れば、原付きバイクと同じように最高速度時速30キロで車道の左側を走行することができるものだ。
便利な乗り物、というだけで受け入れるべきか
電動キックボード自体は、非常に便利で優れたモビリティだとは思う。バッテリーの高性能化により、あのサイズと重量で、十分な動力性能と行動半径を実現しており、近所の移動の足として使うのなら、便利だろう。しかし日本の道路交通が無秩序であり、モラルを軽視する人がそれを乗ることを考えると、リスクが大き過ぎる。
クルマとオートバイ、自転車が共存する現在の車道ですら危険性が十分に高いのに、さらに低速で不安定な電動キックボードが加わることを想像するだけで嫌な予感しかしない。筆者はクルマとロードバイクを移動手段にすることが多いが、自転車ですら車道を逆走、無灯火、後方を見ずに横断など、無法ぶりが目に余る。
さらに1日60キロほどの移動では、クルマに左折で巻き込まれそうになったり、右折車がこちらに気付かず目の前を横切ったりと、平均で2回くらいは危険を感じる。こちらが用心しているから衝突には至らないが、相手ドライバーは事故の危険どころか、こちらの存在にすら気付かず通り過ぎていってしまうケースがほとんどだ。
日本の道路交通は、欧米諸国と比べて国土が限られ、道路整備が遅れた上に自動車産業が高度成長期以降、急速に発展したことから、クルマにとって走りにくい道路構造になってしまっている。
それでもそれに対応するように、日本の道路交通に相性の良いモビリティがすでに存在している。それは軽自動車と電動アシストサイクルである。それぞれにも問題点がないとはいわないが、狭い道路をやりくりして帳尻を合わせる存在として、この2つのモビリティは、日本になくてはならないものとなっている。
また軽自動車とバイクの中間的存在となる超小型モビリティは、軽量で最高速度や加速性能を抑えることにより、乗員を守りつつ外部への衝突エネルギーも軽減することから、高齢ドライバーに打って付けのモビリティだと思う。これから少子高齢化や気候変動など、困難に立ち向かうためには、これらのモビリティの効率を高めることが大事なのは確かだ。
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