止まらないウナギロンダリング 漁業者搾取の謎ルールに支えられる「黒いウナギ」に未来はあるか: 「土用の丑の日」に憂う(5/6 ページ)
今年もウナギ業界最大のイベント「土用の丑の日」がやってきた――。
稚ウナギへのトレサビ法導入を阻む業界の声
国連持続可能な開発目標(SDGs)では、違法・無報告・無規制(Illegal, Unreported, and Unregulated)漁業(頭文字をとって「IUU漁業」と呼ばれる)の撲滅が謳われており、EUや米国も規制を導入。水産物のトレーサビリティー確保などを通じたIUU漁業対策のための法規制が導入されている。
日本でも水産流通適正化法が20年12月に公布され、22年12月までに施行することが決まっている。この法律では国内で違法かつ過剰な採捕が行われるおそれが大きい魚種を「特定第一種水産動植物」と指定。漁獲番号を含む取引記録を作成・保存するとともに、その一部を事業者間で伝達すること、輸出時に国が発行する適法漁獲等証明書を添付することを義務付けている。また、国際的にIUU漁業のおそれが大きい魚種を「特定第二種水産動植物」に指定、輸入時に外国の政府機関等発行の証明書などの添付を義務付ける内容となっている。
現在対象魚種の検討が漁業者、加工業者、リテーラーやNGOの代表などステークホルダーを交えた水産庁の会議で行われており、シラスウナギは「特定第一種」「特定第二種」双方に指定すべきとの声が参加者より上がっている。もし指定されれば密輸、密漁、無報告由来の稚ウナギの取引根絶に大いに役立つ。
ところが養鰻業界団体はこれに猛反対している。日本シラスウナギ取扱者協議会の森山喬司理事長は水産経済新聞(2021年5月24日)の取材で、「しわ寄せを受けるのは国内の養鰻業者ら。日本のウナギ業界全体として、そのような事態を招くのは避けるべきだ」と強く反発 。全日本持続的養鰻機構の大森仁史会長も「国内養鰻業の崩壊を招く」として法の適用対象としないよう求めている(水産経済新聞2021年6月28日)。
大森会長は「台湾はそもそも輸出できないものを、香港を経由させて日本などへ輸出していることは事実」「現状では水産流通適正化法が求めるような外国政府の証明書を台湾が発行することはあり得ず、香港もしかりである」と、密輸由来の稚ウナギ取引の存在を認めつつ、「日本の養鰻業界にとって、輸入シラスは必要不可欠なものであり、これがないと経営が成り立たない」と主張する 。
稚ウナギ取引の自由化によって取引の適正化を図ろうとしている水産庁の担当部局も、養鰻業界団体の強い反対を受けてか、稚ウナギを水産流通適正化法適正化法の適用対象とすることに消極的だ 。
しかし「業界が成り立たないから、『黒いウナギ』の存在を取りあえず黙認してくれ」という理屈が成立するとは思えない。違法なものは存在そのものが容認されるべきでないのだ。
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