止まらないウナギロンダリング 漁業者搾取の謎ルールに支えられる「黒いウナギ」に未来はあるか: 「土用の丑の日」に憂う(4/6 ページ)
今年もウナギ業界最大のイベント「土用の丑の日」がやってきた――。
市場原理が働かないウナギビジネス
売り手と買い手が存在する場合、値段は市場原理によって決められるのが資本主義の大原則だ。ところが稚うなぎはなぜかこれに基づいていない。
高知県の場合、上記の「うなぎ稚魚(しらすうなぎ)特別採捕取扱方針」に加えて「高知県うなぎ稚魚(しらすうなぎ)需給要綱」なるルールが存在し、ここで「うなぎ稚魚の買い入れ価格は、県内養鰻業者の決定によるものとする」と定められている(同要領第10条)。
養鰻業者の側からすると、稚ウナギの価格は安い方がいいに決まっており、必然的に自由に流通した場合の価格より安く設定されてしまう。海部健三中央大学法学部教授が18年12月に実施した調査によると、高知県しらすうなぎ流通センターの許可名義人からの買い取り価格は90万円で、採捕従事者は公的な流通ルートに乗せようとすると60万円での売却を余儀なくされている 。
高知県以外でも、静岡県、愛知県、三重県、和歌山県、香川県、愛媛県、佐賀県、宮崎県、鹿児島県などが稚ウナギの県内利用を掲げている。例えば静岡県では21年漁期の県内取引価格が1キロあたり平均53万円であったところ、全国平均は132万円だったとされている(静岡新聞2021年7月13日) 。養鰻業が稚ウナギ採捕者から安値で買いたたく「搾取」のもとに成立しているのだ。
安値での買いたたきを逃れるためには、稚ウナギ採捕者は必要最低限を表ルートに流す一方で、残りは裏仲買人に高値で買い取ってもらう手段に出るしかなくなってしまう。当然裏ルートに流れる稚ウナギは無報告となり公的な採捕統計に上がることはない。しかし無報告ウナギを生んでいる根本原因は、稚ウナギ採捕者の側にあるのではなく、採捕者からの安い買付けを強制し、資本主義の原則を曲げている「謎ルール」にあるのだ。「これが搾取でなくて何であろうか」と高知県のある採捕従事者は憤る。
この取引実態について、稚ウナギ採捕量が少ない県の業界からはルールの撤廃の求める声がある一方、これがなくなると高値の稚ウナギを買わざるを得なくなる高知や静岡などでは、何らかのかたちで現行のシステムを温存しようとの意見があり、関係者間でも立場が割れている。
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