高速道路の最高速度が120キロなのに、それ以上にクルマのスピードが出る理由:高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)
国産車は取り決めで時速180キロでスピードリミッターが働くようになっている。しかし最近引き上げられたとはいえ、それでも日本の高速道路の最高速度は時速120キロが上限だ。どうしてスピードリミッターの作動は180キロなのだろうか? そう思うドライバーは少なくないようだ。
最高速度ではなく、制限速度による制御が今後普及する?
それでも速度超過、それも大幅に超過した結果、交通事故を起こすと悲惨な事故となることから、今後は速度超過を抑え込む仕組みがクルマに組み込まれることになるようだ。EU(イギリスとスイス、ノルウェーも含む)では2022年7月から販売されるすべてのクルマにISA(Intelligent Speed Assistance=自動速度制御装置)と呼ばれる装置の搭載が義務付けられる。
これはドライバーに自車地点での制限速度を知らせる機能、速度を超過したら警告する機能、速度を抑制させる機能、条件付きの制限速度や標識のない道路での制限速度認識機能という4つの機能によって構成されている。衝突安全性能と同じようにEuro NCAPで、その性能が評価されることになるらしい。
速度を抑制させる機能は、制限速度に達したらアクセルペダルを重くしてそれ以上踏み込み難くするものや、制限速度を超えている場合、自動的にブレーキを作動させて速度を落とすようにするものも考えられている。
日本でも19年からこのISAの導入を検討しているようだが、WP29(自動車基準調和世界フォーラム)に参加してクルマの仕様の国際化を進めている以上、EUと協調してISAも導入することになるのは間違いない。
すでに道路標識をADASのカメラが読み取って、HUD(ヘッドアップディスプレイ=ドライバーの前方視界に速度や進行方向、速度規制などの情報を映し出す装置)により、制限速度を知らせる機能を持つクルマも珍しくない。ISAはさらに4つの機能として充実させるものだ。その制御のための情報は地図情報や路車間通信、画像認識などを組み合わせて利用することになる。
これも完全自動運転に移行するための過渡的な仕様といえるものかもしれない。しかし、一般道でもキッチリと制限速度を守らせるのは、前時代的な感覚のドライバーにはストレスが溜まりそうだ。
ドライバーの操作によるオーバーライドも考えられているが、ドライバーの不注意によるスピードの出し過ぎを防ぐものとしてISAは普及していくことになりそうだ。そうなれば、日本国内での180キロのスピードリミッターは意味の無い、過去の遺物となるのかもしれない。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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