マンションで充電は難しいのに、「EV」は普及するのか:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
EUがガソリン車の新車販売を2035年までに禁止する方針を打ち出したことで、各社はEVシフトの前倒しを進めている。充電設備の不足が懸念されている日本で、EVは普及するのだろうか。マンションで充電することは難しいのに……。
電動車のトルク特性は実は自動車に合っている
日本では自動車を保有している世帯の実に7割近くが戸建て住宅に住んでおり、集合住宅に住む自動車保有者は圧倒的に少数派となっている。戸建て住宅に住んでいる人の場合、ガレージに200ボルトのコンセントを引き込むだけなので、すぐにでも充電設備を設置できる。充電ステーションの有無がEV普及の妨げになるとすれば、集合住宅に住み、かつ毎日のように何百キロも長距離運転する利用者の存在ということなるが、こうした利用者はごくわずかである。
集合住宅の充電ステーションについても解決方法がある。集合住宅に住み、かつ自動車を保有している世帯の8割以上は集合住宅の敷地内に駐車場がある。政府が補助を行い、マンションの管理規約変更などを政府が促せば、あっという前に駐車場へのコンセント設置は進むだろう。
走る楽しみという点でもEVには、大きなアドバンテージがある。クルマに乗らない人には分からないかもしれないが、ガソリンエンジンというのは高速回転させないと十分なトルク(軸を回転させる力:物理学的にはねじりモーメントのこと)を得られない。このためトランスミッション(変速装置)を使って、常に最適なエンジン回転数と走行速度を調整する必要があった。この作業を自動化しているのがAT(オートマチックトランスミッション)である。
特にクルマが好きな人は、わざわざ手動変速が必要なMT車に乗り、シフトダウン(5速→4速→3速といった具合にギア比を連続して変えていく動作のこと)のテクニックなどを競っていた。
元来、クルマというのはスタート時に極めて大きなトルクが必要な乗り物であり、EVはモーターの工学特性上、スタート時から十分なトルクが得られる。このため、ガソリン車のような本格的なトランスミッションは不要となる(あってもわずかな段数で済む)。
こうした特性はクルマにとって理想的であり、EVが普及すれば、EV時代に合った新しい運転の楽しみが確立する可能性が高い。今後は多くの消費者がEVを選択する可能性が高く、その時期はすぐそこに来ている。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。
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