レアメタル戦争の背景 EVの行く手に待ち受ける試練(中編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)
コバルトの問題が難問過ぎるので、今注目を集めているのが、従来のハイコバルト系リチウムイオン電池に代わる方式だ。最も早く話題になったのがリン酸鉄電池である。ついでナトリウム電池、そしてニッケル水素のバイポーラ型電池。長らく次期エースと目されている全固体電池もある。
新車販売が1億台から5000万台(最もEVの生産台数が多くなるEV最少容量の30kWhとして)に半減する世界で、EVだけではカバーしきれない不足を補完するのがハイブリッドや内燃機関であり、今のタイミングで不用意にハイブリッドを含めた内燃機関禁止などを決めてしまったら、社会が求めるモビリティの需要を満たせなくなる。
そうなれば、人と物の移動が急激に停滞する。移動ができなくなってクラッシュするのが経済だけなら、国民の過半が失業する程度で済むかもしれないが、新車の販売台数が半減する状態が何年も継続すれば、徐々にエッセンシャルワーカーですら移動が困難になって、年を追うごとに物流ネットワークが壊死していく。
食料輸送が止まれば各地で飢きんが起きるし、ワクチン接種の医師や看護師が移動できなくなったらどうなるか。需要の半分しか生産されないクルマは世界中で命懸けの奪い合いになってプレミアム価格でしか入手できなくなる。その時、被害は特に貧しい国に集中し地獄絵図になる。そんなことは引き起こしてはいけない。という極めてシンプルな話である。
苛烈(かれつ)な目標設定は勇ましいかもしれないが、進歩は早ければ良いというものではない。確実に、人々の命を守りながら気候変動対策をステップアップさせていくべきだ。
当たり前過ぎて、なんでこんなことをわざわざ書かなくてはならないか分からない。要するに、EVの普及はどんなに進めてもいいが、内燃機関やハイブリッドの禁止は絶対にダメだし、EVの普及のために全く必要ない。バッテリーがいくらでもあるのにもかかわらず、内燃機関を作っているせいでEVが普及しないのではない。内燃機関を全部止めたって、バッテリー供給が制約になって、それ以上にEVを作ることはできないのだ。その現実に目をつぶって内燃機関の禁止を法制化することなど、むしろ百害あって一利なしだ。そもそも仮にそんなルールを作っても、引き起こされる現実を目にして、それでもなお実行できるとは思えない。
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