レアメタル戦争の背景 EVの行く手に待ち受ける試練(中編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)
コバルトの問題が難問過ぎるので、今注目を集めているのが、従来のハイコバルト系リチウムイオン電池に代わる方式だ。最も早く話題になったのがリン酸鉄電池である。ついでナトリウム電池、そしてニッケル水素のバイポーラ型電池。長らく次期エースと目されている全固体電池もある。
そもそもレアメタルは、ごく当たり前に海水に含まれており、絶対量としては決して少ない元素ではない。むしろありふれている。しかし、海水中の有効含有率は極めて低く、濃度が薄いそれを濃縮していては採算が合わない。
ではどういうところで採掘すれば元が取れるのかといえば、例えば南米ボリビアのウユニ湖のような塩湖や塩類平原である。ひとまずややこしいので以後、両者を併せて塩湖と呼ぼう。塩湖の泥には、塩(ナトリウム)だけでなく、地殻から溶け出したさまざまな物質が、長期にわたる水分の蒸発によって極度に濃縮された状態で含有されている。
そうした濃縮の過程を経て、リチウムやコバルトやニッケルなどが高濃度に含有されているのである。しかし、鉱物資源として有用なものだけが存在するなどという都合の良い話はあるはずもなく、水銀やクロム、カドミウム、ヒ素といった有害な重金属もまた含まれる。そもそもバッテリーに使われる鉛もマンガンもコバルトもニッケルも、人体には有害な重金属である。
当然、必要なレアメタルを取り出した後の廃液は、然るべき手段を経て処理されないと大変なことになる。最近では報道されることが減ったが。中国の河川が赤や緑に染まったわけは、これらの資源を採掘し分離や精製をする過程で、不要物質を河川に垂れ流したからだ。余談になるが、レアメタルを精製する過程では大量の水を必要とする。しかし地域によっては水は極めて貴重であり、人の飲み水と競合する。これも頭の片隅には入れておいた方がいい。
レアメタルは、資源そのものも、そして副産物も人体に有害である。レアメタルの採掘は本質的に環境負荷と労働者への健康負荷が高く、ルールを守って対策をせざるを得ない先進国は競争上どうしても不利になる。
中国の場合、必要な場面では先進国並みの機械力を使いつつ、機械力で解決が付かない場面では、途上国並みにモラルの低い労務管理で労働者に負荷を掛けていることが疑われている。すでに旧西側先進諸国の主流派の解釈としては、ウイグル同様の強制労働が、鉱物採掘でも行われているのではないかと見ているわけだ。
そうやって「環境や労働者の健康なぞ知ったことか」式でコストを落とし、さらに補助金を突っ込まれたのでは、とてもではないが、グローバルに公正な競争は成立しない。
今、ウイグルと香港の問題をテコに、米国と欧州が狙っているのは、国際的な環境や人道の枠組みの規制を逆手にとってフリーライドを行う中国共産党を、世界経済から排除することである。
当然それは過激過ぎるという穏当な意見もある。しかし特にオバマ政権時代にそうやって宥和(ゆうわ)政策を取った結果がどうなったかを見ると、少なくとも宥和政策では解決しないことはすでに証明済みだ。排除主義が正しいかどうかは誰にも分からないが、各国の対中声明を並べてみると、現状それが最も有力視されているように思う。
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