プロダクトアウトの罠にハマった「象印」のリカバリー戦略:家電メーカー進化論(8/8 ページ)
電気炊飯器市場でトップシェアを誇る象印マホービンは、2018年に100周年を迎えた。高級炊飯器のヒットとインバウンド需要に押され、10年ごろから右肩上がりで売り上げを伸ばしたが、16年をピークに減少。そこへコロナ禍が発生した。この長引く苦境をどう乗り越えるのか。取締役の宇和政男氏に話を聞いた。
象印は家電メーカーではなく、あくまで日用品メーカー
象印の主力商品は、国内トップシェアを誇る炊飯器だ。しかし象印は、自社を家電メーカーではないと語る。あくまで魔法瓶から始まった家庭日用品メーカーだというスタンスだ。
「当社の社長は『象印は家電メーカーじゃないよ』と言います。元々炊飯器は、東芝さんが55年に作られたのが始まりですが、当社は当時、そうして炊かれたご飯を入れて保温するガラスのジャーを作っていました。そのジャーへ電源を搭載し、電気の力で保温できる電子ジャーを発売したのが70年で、それが当社の家電の歴史が始まりです。
その後、炊飯機能も追加したことで、最終的に他メーカーさんと同じ炊飯器へと進化しましたが、我々のDNAにあるのは、電気を使わない日用品です。その点が他メーカーとの大きな違いだと考えています」(宇和氏)
象印では、炊飯器とステンレスマグは同じ生産開発本部が開発し、人的な交流もある。電気製品と日用品の両方を手掛けるからこそ見えることも大切にしているという。
象印の製品は、いたずらにイメージやマーケティングで煽ることがなく、ひたすらに真面目で無骨だ。しかし「真面目に良いものを作ればいい」という思いが行き過ぎたことに、正面から向き合って反省し、現在立て直しを図っている。
長く売り上げを支えた極め羽釜は役割を終え、18年に「炎舞炊き」へとリニューアルした。そして象印そのものも、時代に合わせ、消費者とより近い位置でものづくりができる企業へと変わろうとしている。
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