なぜハイブリッド車のエンジン始動はブルルンと揺れないのか:高根英幸 「クルマのミライ」(4/5 ページ)
純エンジン車であれば、エンジン始動時にはキュルルルとセルモーターが回る音の後にブルンッとエンジンが目覚める燃焼音と共に身震いのような振動が伝わってくるものだが、ハイブリッド車にはそれがない。それはなぜなのか?
アイドリングストップ車にも始動時に工夫が
純エンジン車のアイドリングストップ機構でも比較的スムーズなエンジン始動と、そうではないものがある。どちらかというと国産車はブルンッという大きな振動を乗員に感じさせるのは避けるように工夫されているのに対し、欧州車は機能重視とばかりに始動時の振動にはあまり気を使っていない印象だ。
エンジン始動時の振動を抑える工夫としては、可変バルブタイミング機構を利用して吸気量を制限することが挙げられる。これは軽負荷の巡航時のように、吸気行程を超えても吸気バルブを開いておくことで混合気を減らして、燃焼圧力を下げることで振動を抑える、というものだ。
マツダが開発したi-stopというエンジン始動法もユニークだ。これはエンジンを停止させる際に発電機の抵抗を使って任意のクランク角度で停止させる。そして膨張途中のシリンダーに燃料を噴射して点火し、瞬時にエンジンを始動させるというもの。セルモーターで勢いを付ける必要がなく、素早いエンジンスタートが可能な技術だが、現実には100%成功する始動法ではないため、セルモーターを併用する方式となって実用化されている。
昔はエンジン始動も命がけだった?
大昔にはデコンプという機構もあった。これはデ・コンプレッション、すなわち圧力を解消する機構のことで、具体的には排気バルブを手動で押し下げ、圧縮行程のシリンダーから圧力を抜くことで、オートバイのキックスターターによるエンジン始動を補助するものだった。
この機構が備わっていないと、圧縮に負けてエンジンが逆回転することにより、キックペダルが跳ね上がってくるケッチン(キックバック)と呼ばれた現象が起こる。それによって足を怪我したり、身体ごと放り投げられたりしたそうだ。筆者はそこまでの経験はないが、キックペダルが跳ね返ってくることは、キックスターターのバイクに乗っていたことがある人なら誰でも軽いケッチンを経験しているだろう。
クルマも黎明期(れいめいき)はフロントバンパー中央辺りからエンジンにクランク棒を差し込んで人力で始動していたらしく、クランク棒がキックバックにより暴れることも珍しくなかったらしい。それで友人を亡くしたヘンリー・マーチン・リーランド(キャデラック社初代社長)は、キャデラックに世界初のセルスターターを搭載したのである。
関連記事
- 高速道路の最高速度が120キロなのに、それ以上にクルマのスピードが出る理由
国産車は取り決めで時速180キロでスピードリミッターが働くようになっている。しかし最近引き上げられたとはいえ、それでも日本の高速道路の最高速度は時速120キロが上限だ。どうしてスピードリミッターの作動は180キロなのだろうか? そう思うドライバーは少なくないようだ。 - アイドリングストップのクルマはなぜ減っているのか? エンジンの進化と燃費モードの変更
アイドリングストップ機構を備えないクルマが登場し、それが増えているのである。燃費向上策のキーデバイスに何が起こっているのか。 - トヨタTHSは、どうして普及しないのか そのシンプルで複雑な仕組みと欧州のプライド
前回の記事「シリーズハイブリッド、LCAを考えると現時点でベストな選択」を読まれた方の中には、こんな疑問を持たれた方も多いのではないだろうか。「シリーズハイブリッドなんかより、シリーズパラレルで万能なトヨタのハイブリッドシステムを他社も利用すればいいのでは?」 - EUが2035年に全面禁止検討 エンジンは本当に消滅するのか
7月中旬、EUの欧州委員会は2035年にEU圏内でのエンジン車販売を禁止する方針を打ち出した。マイルドハイブリッドやフルハイブリッドも禁止される見込みだ。つまり、現時点ではバッテリーEVとFCVしか認められないという方向だ。 - トヨタ、ホンダ、スバル、日産が減産 自動車用半導体がひっ迫した3つの理由
世界中の自動車生産工場が新型コロナウイルスに翻弄されている。2020年後半に急速に業績を回復させたメーカーが多い一方で、ここへきて再び生産を調整しなければならない状況に追い込まれている。その理由となっているのが、半導体部品の不足だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.