テレワークに移行できない企業から人材が流出する理由:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
新型コロナの感染が深刻化していることから、テレワークの重要性がさらに高まっている。テレワークにシフトできた企業は、柔軟で働き方の多様性が認められている可能性が高く、テレワークの可否は社員の定着率にもつながってくる。企業はどう対応すればいいのだろうか。
現状を放置すれば5年後にはもっと大変なことに
このアンケート結果についても、リモートかどうかという物理的環境よりも、組織のカルチャーが影響している可能性が高い。先ほども説明したように、テレワークにシフトできるのかは技術ではなく、社風や管理職のマネジメント能力の問題である。日頃から柔軟な働き方が実現できている組織は、テレワークにもスムーズに対応できるという話であり、結果として優秀な人材を採用できるし、社員の定着率も高くなる。
世の中ではテレワークをめぐって、オフィスとどちらの生産性が高いかといった論争が行われているが、筆者は意味のない議論だと思っている。業務の種類によってオフィスのほうが生産性が高かったり、逆にテレワークのほうが効率的だったりするのは当たり前のことであり、イチかゼロの二元論はナンセンスだ。企業は営利を追求する組織であり、全体の生産性がもっとも高くなるよう、必要に応じて選択するのがベストに決まっている。
ただ一つ言えることは、柔軟でマネジメント能力が高い組織は、容易にテレワークにシフトできるということであり、これはテレワークだけにとどまる話ではない。今後はAIなど、テクノロジーの進歩によって職場の環境はさらに変化する可能性が高く、現時点でテレワークにスムーズに対応できた職場は、次の技術にもうまく対応できるはずだ。
一方、現時点でテレワークを拒絶している組織は、高次元のテクノロジーが普及したときには、さらに対応が難しくなる。当たり前のことだが、従業員は同じ給料なら、柔軟な働き方ができる企業を選ぶに決まっている。
コロナ危機によって表面化したテレワーク格差というのは、とりもなおさず組織が持っている潜在力の格差でもある。現時点においても、社員は常に全員、顔を合わせて仕事をすべきだと考えている経営者や管理職は、すぐにその価値観を改めたほうがよい。このままでは5年後には、人材確保もままならない状況に陥るだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。
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