知らないと損? 続々とビジネス活用が進む「行動経済学」の光と闇:現場で使える行動経済学【前編】(3/5 ページ)
この数年で注目されることが増えた「行動経済学」。ビジネス活用も進んでいるが、結局どのように仕事や生活とかかわるものなのか把握しきれていないビジネスマンが多いのではないだろうか。本記事では、実務に使える行動経済学の基礎について解説する。
非合理的に見える行動を、捉え直す
具体例を挙げて説明しよう。最近のコンビニではレジ横に平台が置いてあり、菓子類や日用品などの商品が陳列してあることが多い。これによりいわゆる「ついで買い」が発生することが経験則上分かっている。
この施策の根拠は、従来の経済学やマーケティングの基礎となる「人間は経済合理性に基づいて個人主義的に行動する」という前提では説明が難しい。消費者はレジ横に置いてある商品を、必ずしも合理的なニーズに基づいて買っているわけではないからだ。ほとんどの場合、別にそれらの商品を買う特段の理由や必要性はなかったものの、「何となく目に付いたので買ってしまった」といったところではないだろうか。
一方、行動経済学は「人には非合理的な感情や心理に基づいて行動する側面がある」という前提を取り入れた上で、感情や心理の側面から消費行動を理解しようと試みる。
現在多くの行動経済学者が、一見すると非合理的にしか見えない人の行動パターンを実験や考察を通じて類型化し、「人は短絡的にぱっと判断する傾向がある」「得するより『損を回避する』ことを優先する」「過去の習慣に従って行動しやすい」といったようなさまざまな理論にまとめ上げている。
これらの理論を援用すれば、先ほどのコンビニのレジ横の例も「人は何度も特定の商品を目にするうちに何となく親近感を持ち、いつしかニーズが生まれて手を伸ばすようになる」と説明できるようになる。
このように、これまでは説明できなかった消費行動をきちんと筋道立てて解釈できるようになれば、今度はその理論を用いて人の心理や感情の動きを逆手に取った施策を新たに考案・実行し、こちらから能動的に消費行動を促せるようになる。まさに「人の心の隙を突くアプローチ」だといえよう。
社会課題への応用も
こうした行動経済学の知見や手法は企業のマーケティング施策だけに限らず、さまざまな社会課題を解決する上で有用だと楠本氏は述べる。
「例えば新型コロナウイルスのワクチンの接種率を上げるために、行動経済学の知見を生かすことも可能だと思います。現在ワクチンの接種を促すために、いろんな方がワクチンの効果や安全性をデータを示して論理的に説明していますが、個人的にはそうしたアプローチはあまり効果がないだろうと見ています」
行動経済学の理論の一つに「ハロー効果」というものがある。これは、人は物事や事象の「ある目立つ特徴」に引きずられて、それだけで評価が極端にポジティブもしくはネガティブに振れてしまう傾向があるというものだ。
これをワクチン接種に当てはめてみると、接種に消極的な人の多くはワクチンの副作用についてのセンセーショナルな報道に影響されるあまり、接種のネガティブな側面ばかりにとらわれてしまい、ポジティブな面が見えなくなってしまうと解釈できる。
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