吉野家とすき家の「牛丼並盛」に、37円の差がある意味 コロナ禍で明暗を分けた戦略を読み解く:飲食店を科学する(4/4 ページ)
コロナ禍でも牛丼チェーン大手のすき家が善戦している。一方、吉野家はすき家と比べて苦戦している。メニューの価格から戦略を読み解くと……
すき家と吉野家の価格戦略
次に価格戦略を見てみます。例えば牛丼の価格に関してですが、最もオーダー率が高い並盛で比較をすると、すき家は350円、吉野家は387円です。すき家の方が37円安くなっています。しかし、牛丼カテゴリーにおける並盛の全アイテムの平均単価を見てみると、すき家は508円、吉野家は490円となっており、すき家の方が18円高くなっています。
つまり、すき家は最下限価格(カテゴリー内の中でも最も安い価格)を吉野家より安く設定しておきながらも、580円以上の高単価の牛丼バリエーションメニュー(鮭オクラ牛丼、エビチリ牛丼、ビビンバ牛丼)を複数展開することで、カテゴリー単価アップを図っているともいえます。こうした戦略を私は「心理的最下限価格戦略」と呼んでいます。
消費者がそのお店の価格を判断する際に基準となる商品(オーダー率が高い)の価格を低く設定することで、心理的な“安さ感”を打ち出します。そして、「価格に敏感(価格弾力性が高い)な客層」を取り込んだ上で、高価格帯に魅力的な商品群を配置することで単価アップを図っていく戦略です。
他の業態の事例で説明します。例えば、焼肉店においては、オーダー率の高い「並カルビ」の値段を下げて安さ感を演出をします。その上で、上カルビや希少部位といった高単価メニューをしっかりとオススメ販売することで客単価アップを図っていきます。
ハンバーガーチェーン業界ではどうでしょうか。ケンタッキーフライドチキンは、ランチタイムの価格帯を安く設定した上で、「価格に敏感(価格弾力性が高い)な客層」を取り込みます。そして、季節限定メニューなどで「高付加価値商品を求める(価格弾力性が低い)客層」を取り込んでいく「2層マーケティング戦略」によって、長引く業績不振からのV字回復に成功しています。
立地戦略が関係するメニューとラインアップ
すき家と吉野家のメニュー数やラインアップの違いは、出店立地戦略の違いも一つの要因になっています。
大商圏の繁華街を中心にサラリーマンや1人客をメインターゲットにしている吉野家は、メニューラインアップの幅をできる限り広げない戦略で経営の効率化を図っています。一方、郊外のロードサイドを出店戦略の中心に据えているすき家においては、ファミリー客といった幅広い客層のニーズに対応するべくメニューラインアップに幅を持たせる戦略を展開しています。こうしたターゲットや出店戦略がコロナ禍という環境の中で功を奏し、競合が苦戦する中でも好業績を上げている要因になっています。
こうした傾向は、牛丼チェーンに限ったことではありません。居酒屋業界においても今までは一等立地とされていた繁華街よりも、やや住宅街に近く週末のファミリー利用などが取り込める立地の方がコロナ禍においては集客ができているという現象も多数みられます。
コロナ禍によって「良い立地」の定義が変わってきています。こうした傾向は今後の飲食店の出店戦略にも大きな影響を及ぼすことが予想されます。
最後までお読み頂きありがとうございました。
著者プロフィール
三ツ井創太郎
株式会社スリーウェルマネジメント代表。数多くのテレビでのコメンテーターや新聞、雑誌等への執筆も手掛ける飲食店専門のコンサルタント。大学卒業と同時に東京の飲食企業にて料理長や店長などを歴任後、業態開発、FC本部構築などを10年以上経験。その後、東証一部上場のコンサルティング会社である株式会社船井総研に入社。飲食部門のチームリーダーとして中小企業から大手上場外食チェーンまで幅広いクライアントに対して経営支援を行う。2016年に飲食店に特化したコンサルティング会社である株式会社スリーウェルマネジメント設立。代表コンサルタントとして日本全国の飲食企業に経営支援を行う。最近では東京都の中小企業支援事業の選任コンサルタントや青森県の業務委託コンサルタントに任命される等、行政と一体となった飲食店支援も積極的に行っている。著書の「飲食店経営“人の問題”を解決する33の法則(DOBOOK)」はアマゾン外食本ランキングの1位を獲得。
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