いまさら聞けないリチウムイオン電池とは? EVの行く手に待ち受ける試練(後編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/7 ページ)
今回は、そのレアアース不足を前提にバッテリーがどの様な変化をしていくのかについて、考えてみたい。まずリチウムイオン電池というものはそもそもどういうモノなのかから説明をしないと話が分からないだろう。
リン酸鉄リチウムイオンバッテリー
さて、ではリチウムを安定化させるための金属をどう工夫していくか。周期表を見ると分かるが、原子番号25がマンガン、26が鉄、27がコバルト、28がニッケルと並んでいて、これらは遷移金属と呼ばれ特性が近い。ということは、コバルトを減らしたいなら、これら隣接する金属の中から、いろいろ選んで変えたり組み合わせてみるのは常道で、もちろん複数を組み合わせて使うのもありだ。そこで調達が簡単で、コストが安く、扱いやすい鉄が注目されている。それがリン酸鉄バッテリーである。
前述の通り、相棒の金属が何であろうが、バッテリーの主役はリチウムイオンなので、原理的な起電力は変わらない。起電力は正極負極と電解液の組成から計算で求めることができるのだそうで、リチウムイオン電池は4ボルト以上の素養を持っている。しかしながら、リアルワールドでは理論値はあくまでも理論値。一般にリン酸鉄ではこれが3.2ボルト程度になってしまう。その結果エネルギー密度が低いのが欠点とされる。
【お詫びと訂正:9/19 10:10 9月6日掲載の記事について、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの説明に間違いがありました。リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの電解液を「水系」と記載しておりましたが、これは正しくは「有機系」です。それに伴い、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーのセルあたり電圧が低い原因を水系の電解液に求める説明も当然違っており、当該部分を訂正いたします。間違いの原因は筆者の思い込みとしか言いようがなく、完全に勘違いをしたまま信じていたことに起因します。お詫びし訂正いたします。】
先ほど、正極にニッケル、コバルト、マンガン、鉄など、遷移系金属が加えられる理由、あるいは役割は、リチウムを安定化させることだと書いた。
安定化という目的は一緒でも、三元系とリン酸鉄系では安定させるやり方が異なる。三元系、つまり遷移金属酸化物系の正極は、原子数個の厚さの板を無数に積み上げたような構造の結晶を作り、層と層の間の狭い空間にリチウム原子をミルフィーユのように挟んで安定化する。
一方リン酸鉄系では結晶構造はジャングルジムのような3次元の格子で、リチウム原子は格子の内側にはまり込んで安定化される。
正極の材料と構造に求められるのは、リチウム原子をしっかり固定して安定化する「安全上の要求」と、電気を伝えるリチウムイオンを自由に動かすという「性能上の要求」という相反する性質のバランスである。束縛力の強い、弱いという両者の性質はその2つの目的で逆の働きをするわけだ。
三元系はリチウム原子の束縛が緩いので、性能は良いが安定化能力がそこそこで、リン酸鉄系はリチウムをガッチリ固定するので安全性は高いがその分電気を通しにくい。もちろん「三元系は多少危なくても仕方がない」ということは製品として許されないので、そこを安全にするためにより厳密な生産管理と、電流、電圧、温度を緻密にモニタリング管理する高度な技術が求められ、これがさらにコストを押し上げる。
これまでは、リン酸鉄系電極のバランスが安全性側に振れすぎて電池としての性能が悪く実用化が難しかったのだが、構造と製造法の工夫のおかげで安全性を確保しつつ性能の良い電池が作れるようになったのである。
リン酸鉄系が安全性に優れている理由はもう一つある。過充電が起きると電池が過熱し、最後には正極の結晶構造が破壊されるが、三元系の正極が破壊されると気体の酸素が発生して有機系電解質が発火してしまう。リン酸鉄系電極も酸素を含むが、三元系電極より強く結晶に結合しているので気体になりにくい。
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