いまさら聞けないリチウムイオン電池とは? EVの行く手に待ち受ける試練(後編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/7 ページ)
今回は、そのレアアース不足を前提にバッテリーがどの様な変化をしていくのかについて、考えてみたい。まずリチウムイオン電池というものはそもそもどういうモノなのかから説明をしないと話が分からないだろう。
少し歴史を振り返ると、三元系で安定化が図られる以前、つまりリチウムを単独で使っていた頃は、リチウムイオン電池は永遠に夢の技術といわれており、まさか今、われわれが知るように、時代を席巻するものになるとは誰も予想していなかった。それを実用化に持ち込んだことでノーベル賞を受賞したのが吉野彰氏らである。
さて、話は元に戻る。現在のところ、三元系が最もトータルバランスが良いとされているのだが、いくら優れていても供給に難のある元素が欠かせないのではどうにもならない。
というところで、再び少し脱線する。というか脱線しないと話が追えなくなる恐れがある。大事な話だが、今世の中の多くのメディアではこの三元系だけがリチウムイオン電池であるかのようにいわれているが、冒頭で述べた通り、電子のやり取りにリチウムイオンを用いるものは全部リチウムイオン電池とするのが正しい。つまり今注目されているリン酸鉄電池もまたリチウムイオン電池の一種である。
ちなみに三元系リチウムイオンバッテリーの配合については、前編のコメント欄に、ジャーナリストの牧野茂雄さんが書き込んでくださった通り、この組み合わせはニッケル、コバルト、マンガン(NCM)5:3:2から6:2:2へと変わり、現在これを8:1:1にする研究が進められているが、まだ時間がかかる模様だ。これらの金属はいわばリチウム電池の安全装置の役割を果たしているので、減らせば出火リスクが増えるのである。
ちなみにこの配合の正確な比率はバッテリーメーカー各社の極秘レシピであり、数値はあくまでも目安だと思ってもらいたい。厳密にいえば各社ごとに、あるいは製品毎に違う。採用する自動車メーカーが求める性能によって配合を変えているわけだ。
関連記事
- EVの行く手に待ち受ける試練(前編)
電動化を進めようとすると、極めて高いハードルとしてそびえ立つのがバッテリーの調達である。バッテリーの調達に関しては、大きく分けて問題が2つある。ひとつはバッテリー生産のひっ迫、もうひとつはバッテリー原材料となる鉱物、とくにレアメタルの絶対的不足である。 - レアメタル戦争の背景 EVの行く手に待ち受ける試練(中編)
コバルトの問題が難問過ぎるので、今注目を集めているのが、従来のハイコバルト系リチウムイオン電池に代わる方式だ。最も早く話題になったのがリン酸鉄電池である。ついでナトリウム電池、そしてニッケル水素のバイポーラ型電池。長らく次期エースと目されている全固体電池もある。 - 新型アクア ヤリスじゃダメなのか?
7月19日、トヨタ自動車は新型アクアを発売した。先代(初代)のアクアを振り返ってみれば、これはなかなかに酷(ひど)いものだった。そして、今回のアクアにはもうひとつ大きなトピックがある。それがバイポーラ型バッテリーの採用だ。 - EV生産比率を5倍に増やすマツダと政府の“パワハラ”
マツダは、30年時点のEVの生産比率を25%と大幅に上方修正した。ではなぜマツダはそれだけEVの比率を大きく再発表したのかといえば、これは政府によるパワハラの疑いが濃厚である。 - 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.