ジェンダーレス男子、タレント二世も起用NG。中国エンタメ界に吹き荒れる大統制:浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(4/6 ページ)
中国の習近平政権が経済に加え教育・エンタメ業界の規制を強め、国内外から「文革の再来」との声が上がっている。特にエンタメ分野では「ジェンダーレス男子の番組への起用禁止」「タレント育成番組の禁止」など、コンテンツや出演者の裁量を大きく制限しており、中国市場を狙う日本企業やタレントも戦略見直しを迫られそうだ。
オーディション番組、ファンが34億円分の「投票権」購入
中国当局がエンタメ規制に乗り出すきっかけは、4月末から5月初めに世間を騒がせた人気オーディション番組「青春有你3」の「“推し活”乳飲料廃棄事件」だ。
動画配信大手「愛奇芸(iQIYI)」が配信する同番組は今年2月に開始。日本人を含む118人の練習生がファン投票によって段階的に淘汰されていき、最終選出された9人がアイドルグループとしてデビューできることになっていた。
ファン投票は番組アプリを通じてできるほか、番組スポンサー「蒙牛」の乳製品を購入し蓋(ふた)などに表示されたQRコードからも可能で、番組アプリでの投票回数に上限があるのに対し、乳製品購入による投票は無制限だった。
ファンは“推し”をデビューさせるために大量の乳製品を購入するわけだが、投票権を獲得して用済みになった中身を路上に廃棄する動画が4月末にSNSで拡散した。その結果、アイドルに興味のない世代や層も、ファン経済や推し活の実態を知ることになった。
5月8日には国務院の記者会見で同問題が質問され、国家インターネット情報弁公室インターネット総合ガバナンス局の張拥軍局長が「大人が自分たちの利益を優先し、青少年に一線を超えさせ、ネットの中傷、ファン同士の誹謗中傷、デマ拡散、不当消費などを引き起こしている」と「ファン経済」の行きすぎに言及した。愛奇芸はその翌日、番組配信だけでなく決戦投票そのものの取りやめを発表した。
中国メディアによると番組に出ていた練習生上位9人の投票数は計5600万を超え、蒙牛の乳製品約2億元相当(約34億円)が投じられた計算になる。
実は中国の他のオーディション番組でも蒙牛がスポンサーにつき、商品を購入させて投票権を付与する手法を取っていた。乳製品廃棄動画がSNSで拡散されなければ、その成功体験は延々繰り返されていただろう。
国家インターネット情報弁公室は6月、2カ月に渡って「無秩序なファン経済の清浄化キャンペーン」を展開すると発表した。4月末に「反食品浪費法」が成立したのに続き、6月1日には改正未成年法が施行された。自業自得ではあるが、ネット企業やエンタメ業界は最悪のタイミングで当局に目をつけられたのだ。
関連記事
- テンセント、株価急落に続き「未成年者保護法違反」で提訴。毒物ゲーム「王者栄耀」が標的に
テンセントの株価が8月3日、一時10%下落した。中国政府系メディア・経済観察報による、同社の大ヒットオンラインゲームを名指しした批判記事が原因だ。同ゲームはこれまでも国営メディアに毒物扱いされてきたが、株価を直撃したのは今回が初。投資家は当面、国営メディアの論説に振り回されるのかもしれない。 - ビットコインは目の上のたんこぶ、人民銀幹部「暗号資産は投資商品」発言の真意
人民銀の幹部が4月18日デジタル資産について「投資商品」との見解を示した。仮想通貨交換所・コインベースの米国上場、ビットコインの値上がりも重なり、中国でも仮想通貨“解禁”への期待が高まっている。しかし仮想通貨取引・利用を全面禁止している中国政府が、デジタル人民元以外のデジタル通貨を許容することは当面なさそうだ - フィンテック「金縛り」のアリババ、市場予想を上回る決算発表 〜今後はローエンド市場を強化
アリババグループは2月2日、2020年第3四半期決算を発表した。中国当局の監視が厳しくなる中、売上高は前年同期比37%増の約3兆5600億円、純利益は同52%増の約1兆2800億円と、市場予想を上回るものとなった。今後は、コロナ禍の消費変化に対応する新事業やのローエンド市場を強化する方針を強調した。 - 上場延期で衝撃、中国・アントを知る5つのキーワード
史上最大のIPOと注目されていた中国アリババの金融子会社アント・グループの上場延期が11月3日に発表された。ジャック・マー氏ら幹部3人が前日に金融当局の指導を受け、上場計画の見直しを迫られたことが理由だ。本稿ではアントの歴史や事業構造、今後の見通しなどを5つのキーワードからひも解いていく。 - 「6年前のM&A」でアリババに罰金、企業分割もちらつかせる中国当局の真意
アリババなど中国大手IT企業3社が12月14日、独占禁止法違反で50万元(約800元)の罰金を課せられた。いずれも過去のM&Aを当局へ申請しなかった点が問題視されている。世界ではGAFAへの規制が強まっているが、中国をデジタル大国に押し上げた立役者であるメガIT企業に対しても、同様に当局の姿勢が締め付けへと変化している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.