化石燃料から作る水素は意外にバカにできない:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
新エネルギーに求められるのは、やはり環境負荷だ。しかし、そうやって理想の形を求めていくと、それ以外のアプローチが存在し得る話が徐々に見えてきた。それが意外や意外、褐炭ベースの水素というソリューションだったのである。
Fランクの石炭、褐炭を水素化する
本当はここでこの取材が何だったかを書きたいのだが、その前に常識をどうひっくり返されたのかを書いてしまおう。
CCSのコストは実はいうほどには高くなかったのだ。筆者が驚いたのは「従来手法での採掘限界に達した油田では、地中にCO2を圧送することで、原油に圧力を掛けて採掘している」という事実で、それはすなわち、原油価格で十分に回収できる程度のコストでCCSは可能になると考え得ることだ。となると話は変わってくる。「褐炭由来は環境負荷が高い」という先入観をひっくり返していかなくてはならない。まあ「最初からゼロの方が分かりやすい」のは間違いないので、価値観を大転換する機会そのものが少ないだろうが、難易度としては知的好奇心のある人にとってはさほど難しい話ではないと思う。
さて、ちょいと余談。褐炭とはそもそもFランクの石炭だ。クズ石炭。世界中に広く分布していて、利用価値も低い。量があって需要が低いから単価は安い。水素化する時のCO2さえ対策できれば「作る」の部分はメリットだらけになる。再生可能エネルギーベースの水素とは明確にコスト差がつけられるのである。
褐炭は採掘時に水分を多量に含んでおり、これが熱量を吸収してしまうから燃やしても効率が低い。ところがこれを事前に乾燥させると今度は自然発火しやすい面倒なところがある。だから褐炭のまま輸送するのはリスクが高いわけだ。なので産出国、例えばオーストラリアで水素化を行い。CCSでCO2を除外する。全く新しい技術ができれば別だが、現状では他の選択肢は難しそうに見える。
気体のままの水素は輸送効率が悪い。「空気を運んでいる」という言葉がある通りである。多少圧縮するにしても理想とはほど遠い。しかも水素は分子が小さく。いろんな物体を透過する性質があり密閉しにくい。
だから、できれば液化したいのだ。ところが水素はそう簡単に液化できない。触媒を使って例えば窒素などとの化学反応で液化させることは可能で、アンモニアやギ酸などに変換できるのだが、化学系の反応を使うと、元の純度にほぼ戻せない。エンジンで燃やす分には問題なくとも、純度が低いとFCには使えない。
高純度を保ちつつ、まともな輸送効率を実現するには、沸点以下に温度を下げて液化させるしかない。ところが水素はこの沸点がマイナス253℃と極めて低く、冷やすのもそう一筋縄ではいかないし、エネルギーを食う。しかし、液体水素を作りたい場所にはCCSによってカーボンニュートラル化された水素が大量にある。その水素を燃やしてガスタービン発電機を回せば、冷却によるコスト的負荷は極めて低くできる。
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