大量出店の「やっぱりステーキ」が、今後も“独走”を続けられそうな理由:長浜淳之介のトレンドアンテナ(6/6 ページ)
低価格ステーキチェーンの「やっぱりステーキ」が順調に店舗数を伸ばしている。他の低価格ステーキチェーンが伸びているわけではないのに、なぜ「やっぱり」は好調なのか?
当面は強力なライバル不在か
さて、無理な大量出店をした結果、自社店舗の競合やサービス品質の低下で、大量閉店を余儀なくされているのがいきなり!ステーキ。
既存店の売り上げは、今年4月には前年同月比で144.7%、5月に157.4%となった。18年4月から続いていた既存店のマイナスが、前年の緊急事態の影響が厳しすぎたため3年ぶりにプラスに転じたが、6〜8月は再びマイナスになっている。もともと売り上げが減っていた中でのコロナ禍であり、依然として非常に厳しい状況だ。
だが、運営もなんとか集客を上げようと懸命に努力している。8月10日からは全店でオーストラリア産イチボステーキを期間限定で販売。肉質はやわらかく低カロリーで、牛1頭から2キロほどしか取れない希少部位を、160グラムで1280円からと破格の値段で提供。9月末までの販売予定を8月末までに変更せざるを得ないほど、よく売れた。
不振の中でも光明が差しており、商品を見直せば、再浮上できるのではないかと思わせた。
ステーキ屋松はどうか。松屋フーズにしてみれば、本体の「松屋」の売り上げが、コロナ禍前となる2年前より10%以上落ちていて、ステーキ屋松の展開を考えている場合ではないのかもしれない。
しかし、9月にはステーキ屋松と松屋のコラボメニューとして、松屋からビフテキ丼が販売されている。同月7日からはごま風味香るしょうゆダレが特徴の「にんにくごま醤油」、14日からはマスタード香る玉ねぎたっぷりの「香味ジャポネソース」(いずれも750円)が、米国・アンガス牛100%を使って提供されている。松屋にしては価格の高いメニューだが、ステーキ屋松が久々にクローズアップされている。
こうして徐々にステーキ屋松の名前を広めておいて、時が来れば一気に出店することもあり得るので、松屋フーズが出店を止めているから「諦めた」と考えるのは早計だろう。
低価格ステーキで突っ走るやっぱりステーキだが、いきなり!ステーキの失速を見ているだけに、能力を超えたことはしておらず、大量出店をしていても、冷静さを失っていないと見受けられた。
県庁所在地クラスの中都市都心部店、東京をはじめとする大都市都心部店、吉祥寺のような大都市近郊駅前店、郊外ロードサイド店など、顧客のニーズに合わせた店づくりを続ければ、当面ライバルはなく独走できるのではないだろうか。
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
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