トヨタSUV陣の最後の駒 玄人っぽいクルマ作りのカローラクロス:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)
カローラクロスは、これまた難しいクルマだ。率直な感想としては「十分以上に良い。だけどこれといって光るとか、ウリになりそうな何かがない」。という書き方をすると、これがまた「だから80点主義なんでしょ?」という話になるのだろうが、そういわれると、そうじゃない。
ということで、そろそろカローラクロスをどう見るかの話に決着をつけないといけない。いまや日本国内のファミリーカーは、実質的にBセグメントに移行している。ヤリスクロスのリヤシートは長距離でなければ、ましてや子供や体の柔らかい若者なら問題ない水準にある。しかし、それ以上の広さを求めたり、あるいは荷物も積みたいという人は当然それなりにいるだろう。家族でスノボとか、キャンプとか、そういうことができること自体に意義を感じる人は少なくない。その時大きなボディを選べるならば良いのだが、一方で近所のスーパーに行くにはデカいと不便になる。そういう過ぎたるはなんとやらを全部一台にまとめたCセグメントがカローラクロスである。
しかしながら、Bセグ、つまりヤリスクロスとの違いをどうするのだという課題は残る。ひとクラス上のプレミアム感がいるのか要らないのか。それは、つまるところ日本におけるCセグとは何なのかという問いに等しい。
プレミアムにすれば装備も増えて価格も上がる。ところがグローバルではいまだにCセグは大衆車の中心であり、そこが日本と少し事情が違う。世界のCセグではプレミアムなものは例外に過ぎない。カローラクロスは明らかにグローバルカーだからこそプレミアムではないCセグメントSUVという落としどころに徹底的に合わせ込んだ。それは日本では今や少数派かもしれないが、多分そこには需要がある。ヤリスクロスと比べて、最廉価のガソリンモデル同士で20万円、FFハイブリッドのトップグレードで30万円の差額で、もう少し豊かな後席と使い勝手が広がるラゲッジが手に入る。
あらゆる意味で玄人っぽいクルマ作りを感じる。あまりに普通で分かりにくいが、そこにはプロの徹底したさじ加減がみっちりと詰まっていると思う。
さて、最後に少しばかり宣伝をさせていただこう。YouTubeチャンネル「未来ネット」で、元内閣官房参与の加藤康子さんと、モータージャーナリストの岡崎五朗さんと11回に渡って、日本の脱炭素政策について鼎談を行った番組があるのだが、この鼎談を書き起こした書籍が10月11日にワニブックスから発売になる。タイトルは『EV推進の罠』。鼎談の書き起こしがどんな仕上がりになるものかと思っていたのだが、これが本人達もちょっとびっくりするぐらい中身が詰まっている。ご興味があれば是非ご一読をお願いしたい。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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