経済事件を予言? ビジネスパーソンこそ『ゴルゴ13』を読むべき理由:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
すご腕スナイバー、ゴルゴ13ことデューク東郷の活躍を描く漫画『ゴルゴ13』の作者、さいとう・たかを氏がお亡くなりになった。政治家や官僚など幅広い層に支持されているわけだが、筆者の窪田氏は「ビジネスパーソンこそ読むべき」だという。どういう意味かというと……。
未来を言い当てる
もしこの事実が公表されたら、大日新鉄鋼は大きなダメージを被る。劇中の登場人物のセリフを引用しよう。
「JIS規格に則り、安全が保障された鉄鋼でないと、すべてが違法となります! その様な事をした鉄鋼企業は市場の信頼を、失いますよ!」
いかがだろう、これはまさしく17年10月以降の神戸製鋼の姿と丸かぶりではないか。
まず、「40年以上前から隠ぺいされていた不正」という点が怖いほど重なっている。そして、不正の内容も似ている。神戸製鋼の場合、顧客と約束した基準を満たしていなかったわけだが、一連の不正を受けて、国内の複数拠点でJIS認証の取り消しや一時停止処分を受けている。これは劇中の大日新鉄鋼が恐れていた事態そのものだ。また、「納入先」も劇中と同じだ。
神戸製鋼のデータ改ざん製品は、福島第二原発やウラン工場に納品されていたほか、九州電力の火力発電所の配管にも用いられていた。そのため、強度に問題はなかったが、インフラを担う企業までだましていたと批判を受け、日本のものづくりの信頼を大きく失墜させた。そして、この名門企業のスキャンダルに誘発されるように、三菱マテリアル、東レ、宇部興産、そして三菱電機などデータ不正が相次いで発覚したのである。
一方、大日新鉄鋼も神戸製鋼同様に原発や火力発電所に製品を納入していた。ただ、こちらの不正は表沙汰になっていない。デューク東郷が証拠を破壊して、技術漏洩を目論む中国の産業スパイも始末をしたからだ。原発に用いられていた製品もちょうど廃炉になったタイミングで回収して、溶解処分で闇に葬った。
これぞ『ゴルゴ13』というドラマチックな展開だが、現実は漫画のようにうまくいかない。コンプラ重視のこの時代、大企業の不正は必ずどこかから漏れて表沙汰になるものなのだ。だから、筆者は「腐食鉄鋼」を読んだ際、「遅かれ早かれ、日本の鉄鋼業界でもこんなスキャンダルが発覚するんだろうなあ」と思っていた。
そして、17年にその通りになった。鉄鋼業界の未来をこんな形で言い当てることは日経新聞も一流のビジネス誌もできていなかったはずだ。
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