経済事件を予言? ビジネスパーソンこそ『ゴルゴ13』を読むべき理由:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
すご腕スナイバー、ゴルゴ13ことデューク東郷の活躍を描く漫画『ゴルゴ13』の作者、さいとう・たかを氏がお亡くなりになった。政治家や官僚など幅広い層に支持されているわけだが、筆者の窪田氏は「ビジネスパーソンこそ読むべき」だという。どういう意味かというと……。
『ゴルゴ13』が指摘した問題
もちろん、「ゴルゴ13の予言」は企業のスキャンダルや不祥事だけではない。日本経済に深刻なダメージを与えるリスクも、かなり先回りして描かれている。例えば、今年7月、東京・大田区の町工場の社長が、兵器に転用できるモーターを中国に輸出しようとしたとして外事警察に摘発、書類送検された事件もそうだ。
この町工場は、90歳の社長と妻、社員2人のいわゆる零細企業だが、独自の高い技術力で国内外から注文を受けていた。3年前、中国の商社社員を名乗る男性がやって来て「農薬散布用ヘリコプターに使うので、モーターを売ってほしい」と注文をした。実はこのモーターと同型のものがUAEでも押収されており、軍事転用される恐れがあると国連から指摘されたという。
これを受けて、この町工場には愛国心あふれる方たちから「売国奴」「国賊が!」といった怒りのクレームが寄せられた。兵器にも転用できるほど高い技術力を持つ日本の町工場が、中国など他国の軍事産業にいいように利用されてしまうこの問題も、実は『ゴルゴ13』は予言していた。
それは02年12月に発表された「龍への供物」である。
舞台は、東京・大田区の町工場。独自の高い金属加工技術を持つ高齢の社長と、その家族が営むこの小さな工場で、中国からの出稼ぎ労働者である劉という青年がやって来た。劉は真面目に働き、社長や家族から厚い信頼を受けていたが、実は彼は日本の町工場などから技術を盗んで、軍事流用するためにやって来た中国の産業スパイのリーダーだった……という物語だ。
最終的に、この中国人スパイは、社長の弟である公安警察の依頼を受けたデューク東郷によって、国外逃亡前に暗殺され、技術漏洩は防ぐことができた。
しかし、これも漫画だからそういう結末になっているが、現実はそんなに都合のいい話はない。警戒心のない町工場は中国からの注文や、中国からの労働者をあっさりと信用し、求められるまま製品や技術を貢いでしまう。劇中でも町工場の家族たちは中国人スパイを心から信頼し、社長は長年積み上げてきたノウハウを伝えようとした。後継者もいないので当然だ。しかし、その思いはあっさり裏切られる。町工場が置かれた過酷な現実を、『ゴルゴ13』ではこう指摘される。
「小資源国・日本にとって、日本製品が国際競争力を持ち得てきた源泉である工業の分野での高い加工技術とその熟練工は、最後の宝とも言える存在である。だが日本経済の長期の停滞下、主に産業の下部構造を支えてきた彼らが報われることはあまりに少ない」
この作品から19年を経て、「最後の宝」ともいう町工場の熟練工は、報われないどころか、摘発されて「国賊」とののしられている。まさしく『ゴルゴ13』が指摘した問題が現実になっているのだ。
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