「40施設を売却」と報じられたプリンスホテルは“崖っぷち”なのか 現執行役員が語った生き残り策とは:瀧澤信秋「ホテルの深層」(4/4 ページ)
プリンスホテルが進めてきたブランド戦略。3ブランド展開と共に進めたのがエリア体制だ。プリンスホテルの売却で何が変わるのだろうか。
売却によりなにが変わるか
そろそろスペースも尽きてきた。冒頭でも記したが、プリンスホテルにとっての大きなニュースとして、国内のホテル・レジャー40施設程度を対象とする売却に向けた動きが報道された。プリンスホテルによると対象施設は決定していないというものの、ホテルの資産売却という点について、一般的にはどうように捉えたらいいのだろうか。
資産売却をするものの、運営権はプリンスホテルに残されるという点は、先の近鉄によるブラックストーンへのホテル資産売却と同様の特徴といえる。
きっかけは親会社・西武ホールディングスの上場会社としてのコロナ禍による決算対策的なところはあるだろう。しかし本質的にはプリンスホテルが今後、純粋なオペレーターとしてカネを稼げる会社にするための第一歩とも受け取れる。プリンスホテルとしては、これまでよりも運営に対する専門性が問われることになる。
資産売却という文字が大きくクローズアップされているが、ホテルオペレーターにとっては、国際的には所有をせず運営に特化するのはスタンダードなスタイルでもある。そもそも、ホテルの運営受託形式はヒルトンホテルの創業者であるコンラッド・ヒルトンがつくったとされる。
1930年代の大恐慌で所有していたホテルが抵当となったが、銀行はホテル運営が出来ないのでホテル運営をして運営受託料を受け取った。そうして所有と運営の分化がはっきりとされていく中で、ヒルトンのチェーン規模が拡大したわけだ。
そんなホテルにおける所有と運営の分化傾向を考えても、プリンスホテルが運営に特化していくのは必須ということか。武井氏は「いままでは自社内でなされてきた所有と運営が、結果として一部変わっていくのは前向きに捉えてよい」と話す。
他方、日本では所有も運営もするホテルが伝統的ホテルとして存在感を発揮してきた。それは、ある種の日本らしさかもしれないが、別の側面からいえば日本にホテル産業そのものが根付かなかったとも評せる。
日本のホテルが国際競争力を獲得するためには、運営を受託してチェーン規模を拡大していくしかないのだろうか。運営受託であれば、利益を求めるオーナーに対して集客力のある運営会社たらねばなるまい。集客のための差別化戦略として、プリンスホテルが外資にないものをどう伸ばしていくのかについて前述したが、果たしてプリンスホテルの売り物は何か? ハイアットやマリオットと同じではいけないのか? ますますその存在感が問われていくことになるだろう。
著者プロフィール
瀧澤信秋(たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)
一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。
日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。
著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)などがある。
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