「今日の仕事は、楽しみですか」に、なぜイラっとしたのか 「仕事が苦痛」な日本人の病:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
「今日の仕事は、楽しみですか」――。JR品川駅内のコンコースに表示された広告が、批判を受けて1日で終了した。なぜ多くのビジネスパーソンはこの文言にイラっとしたのか。筆者の窪田氏がその背景を分析したところ……。
異常な仕事観
多くの日本人にとって仕事とは生活のど真ん中であり、「人生の中心」でもあるので、それがなくなってしまう、減っていくことが何よりも恐ろしい。だから、最低賃金以下しか払えず、ビジネスモデルも破綻した企業であっても、常軌を逸したブラック労働を強いるような企業であっても、とにかく「倒産しない」ことが「善」である。
この「善」を成すために、多少の犠牲があってもしょうがない。だから、経済評論家や中小企業経営者の皆さんは、「生活できない」と訴える低賃金労働者をこう諭す。
「賃金を上げろ、上げろ、とワガママを言うけど、会社が潰れちゃったら元も子もないでしょ。賃金をあげてもいいけど、クビになったり、シフト減らされたら同じでしょ? じゃあ、ガマンしなくちゃ」
他国なら暴動が起きるレベルの理不尽なロジックだが、幼いころから「人は金のためだけに、働いているわけではない」教の洗礼を受けて、骨の髄までこの考えが染み付いている日本人は血の涙を流しながら耐える。そして安い製品、安いサービスでなんとか生きていく。この負のサイクルを30年以上続けてきた結果が、「安いニッポン」だ。
そこで不思議なのは、なぜこんな「異常な仕事観」が社会の一般に常識になってしまったのか。経済評論家なんかはすぐに松下幸之助などを引っ張り出して、「日本の高度経済成長を支えた日本の家族主義だ」みたいな方向へ持っていくが、歴史的事実としては、太平洋戦争末期の「皇国労働観」をいまだに引きずっている側面が強い。
実は明治時代まで、日本人の仕事観はもっとシンプルだった。高い技術を持っている人間はたくさんお金をもらえた。自分を高く評価してくれる場所があれば、今の仕事を放り投げ出して、フットワーク軽く移籍した。今で言うところのジョブ型雇用である。
しかし、「富国強兵」という国策のもと、労働者は転職せず、一つの会社で生涯、技術を磨き、後進を指導すべし、というようなトレンドが出てくる。金で優秀な技術者が頻繁に動くようであれば、国全体の技術の底上げはつながらない。また、今問題になっているように、海外への「頭脳流出」という問題も出てくるからだ。
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