「今日の仕事は、楽しみですか」に、なぜイラっとしたのか 「仕事が苦痛」な日本人の病:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
「今日の仕事は、楽しみですか」――。JR品川駅内のコンコースに表示された広告が、批判を受けて1日で終了した。なぜ多くのビジネスパーソンはこの文言にイラっとしたのか。筆者の窪田氏がその背景を分析したところ……。
「やり甲斐搾取」と丸かぶり
そこで労働者を会社に縛りつけておくためのシステムとして誕生したのが、「年功賃金」、いわゆる年功序列である。義務教育では教えてくれないが、この労働文化が一気に普及したのは、「戦争」だ。戦後の労働問題を研究し続けた東京大学名誉教授の氏原正治郎氏はかなり早い段階から指摘していた。
『年功賃金が生まれたのはいつか。人によって見方がちがうが、東大の氏原正治郎教授は「第二次大戦中の賃金制度からとするのが通説」という』(読売新聞 1975年2月19日)
新しい年功賃金というシステムが導入されると当然、これまで高い技術などを評価されてそれなりの賃金を得ていた人や、過酷な労働の対価で賃金を受け取っていた人たちから不満の声が上がる。大して仕事もしないのに、社歴が長いだけで高い給料がもらえるシステムなど不条理すぎる。現在の「働かないおじさん」への不満は実は戦時中から存在していたのだ。
そんな「賃金」への不満を一気にゼロにするために生み出されたのが、「皇国労働観」である。
『戦争末期の十九年に発表された「日本的給与制度大網」では「賃金は明日の勤労再生の生活保証であり、労働の対価という考えは賃金奴隷根性の培養の根源」ときめつけた』(同上)
つまり、年功賃金の不平等さを誤魔化すため、「金のために働くのは賤(いや)しい者がやること」という「思想教育」を国民に施すようになるのだ。この徹底した「賃金軽視カルチャー」が、国民総動員の動きもあって、疫病のように日本人の間に広まってしまう。1944年に、厚生研究会によって発行された『国民徴用読本』(新紀元社)にもこうある。
『勤労を賃金を得るための手段と考へれば苦痛が伴ふし、屈辱も感ずることにならう。然し勤労そのものが目的であれば苦痛もなければ屈辱もない。いはゆる「勤労三昧」の境地に到達するものといふべきだ』(45ページ)
これを見て、デジャブを感じないか。そう、まさしくブラック企業が社員を洗脳する際に、よく用いる「やり甲斐搾取」という手法と丸かぶりなのだ。仕事は賃金を得るためではなく、夢や自己実現のためである。そういう思いで働けば、どんな辛いことでもできる――。
そんな思想を研修などで繰り返し叩き込まれ、気がつけば「低賃金で文句を言わずに働く奴隷」にされてしまう。かつて日本では国家がそれをやっていたのである。
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