「今日の仕事は、楽しみですか」に、なぜイラっとしたのか 「仕事が苦痛」な日本人の病:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
「今日の仕事は、楽しみですか」――。JR品川駅内のコンコースに表示された広告が、批判を受けて1日で終了した。なぜ多くのビジネスパーソンはこの文言にイラっとしたのか。筆者の窪田氏がその背景を分析したところ……。
カルトから抜け出すこと
「そんな昔のことをアツく語られてもねえ」とシラけている方もいらっしゃるだろうが、ではなぜわれわれはそんな昔につくられた「年功賃金」を今も後生大事にしているのか。戦時体制の都合でつくられた大昔の賃金システムを、「日本企業の強さの秘密」などと崇(あが)めているのか。
年功序列、年功賃金などなくても成長をしている国など世界に山ほど存在しているにもかかわらず、これをやめようと言い出しただけで、「日本を滅ぼす気か」と袋叩きにされ、「年功序列があったから日本は成長できた」という科学的根拠ゼロのストーリーを盲信している。こういう状態を世界では「宗教」と呼ばれる。
70年以上も経過しているにもかかわらず、われわれがいまだに「年功賃金教」を信仰している事実がある以上、同時期に生み出された「皇国労働観」という洗脳からも解けていない、と考えるのが筋ではないのか。
真面目な日本人は、戦時中の指導者たち唱えた「勤労三昧の境地」を今もしっかりと実践している。カネのために働くのではなく、「働く」こと自体を目的化して、「やり甲斐」「働く楽しさ」を重視しているが、なぜかちっとも苦痛が和らがない。むしろ、カネ目当てで働く国の人よりも遥かにメンタルをやられて、「今日の仕事は、楽しみですか。」という問いかけに、不快になったり、心を傷つけられたりする人もたくさんいる。
客観的に見れば、「人は金のためだけに、働いているわけではない」という信仰がもたらした苦しみであることは明らかだ。宗教は人を救うが、時にその排他性や独善性が人を苦しめる。日本の「働き方改革」がなかなかうまくいかないのは、この視点が欠けているからだ。
カルトにハマったまま、いくら「改革」を叫んだところで洗脳は解けない。まずやるべことは、カルトから抜け出すことだ。
賃上げは労働者のワガママ、会社や社会、ひいては国家の利益のことまで考えが及ばない短絡的な発想だ――。そんな宗教裁判のような弾圧を続けてきた結果が、フルタイムで働いても年収200万円程度という低賃金労働者があふれる「安いニッポン」だ。
この現実を真摯(しんし)に受け止めて、そろそろ「人は金のためだけに、働いているわけではない」というブラック企業の研修で連呼させられるよう考え方を日本人は改めるべきではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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