石油価格上昇 インフレによるスタグフレーションの心配はない?(2/2 ページ)
昨今、原油価格の高騰などから、景気後退とインフレ(物価上昇)が同時に起こるスタグフレーションを警戒する声が聞かれる。1970年代のオイルショックの際には、景気後退で給料が上がらないにもかかわらず物価が上昇し、生活者にとって極めて厳しい状況となった。
好調な需要
そもそもスタグフレーションは景気後退とインフレが同時に起こることだが、「インフレが原因で景気が悪化するのはおかしい」と神山氏。現在、インフレ率が上がってきているのは需要が強いからだ。資源価格上昇から製品への価格転嫁が遅れ、一時的に経済に影響が出るという供給不足によるショックはあり得るが、3〜6カ月間程度だろうと見込む。
そもそもの需要については堅調だ。米国非農業部門雇用はコロナショックからの回復期にあるが、完全回復までのギャップがまだあるのは、景気が回復仕切っていないためではないと見る。コロナでの一時金の支給や失業手当の上乗せにより、急いで仕事に戻らなくてもいいやと思うケース、そしてコロナにかかわる仕事から離れたいと考えるケースがあるためだ。
「ニューヨークでは、ほとんどのレストランで『従業員募集中』と出ている。他人と接触する接客業は嫌がられ、ほかの仕事に行きたがっているようだ」(神山氏)
米国の小売り統計も好調だ。直近では、トレンドラインを大きく超えて伸びており、「もう少し粘ってくれれば、トレンドが追いつく。そうなれば、株価がピークアウトして下がることを想定しなくていい」(神山氏)
米FRBが行ったアンケートでは、コロナ関係で政府が支給した一時金について、3分の1は消費に、3分の1は借金の返済に使ったという。そして、残り3分の1は今後の消費に使える。この残りを、今後消費に使うことが好調な需要を支えると見る。コロナが落ち着いて、旅行や飲食にお金を使うようになっていくと、需要全体は下がらないわけだ。
日本の輸出も最高水準
米国で雇用が戻る、すると賃金が上昇し、小売り(消費)が伸びる。消費が伸びると米国は輸入でそれをまかなう。そして日本の輸出も増加するというのが、いま起こっているサイクルになる。米国の輸入額はコロナ前を超える水準にあり、日本の実質輸出もコロナ前はもちろん、リーマンショック前も超えてきた。過去最高水準だ。
「日本は、長い間デフレ状態にあったが、輸出の世界においては、そろそろ設備投資などをしていかなくてはならない。ここから先、リーマンショックを抜いた水準が続けば、新規の設備投資が必要になる。これはデフレマインドからの脱却が近づいてくることを意味する」(神山氏)
神山氏は需要、特に世界最大の消費地である米国の需要を重視して経済の状況を把握する。その需要が好調である限り、インフレもスタグフレーションも懸念する必要はないという。「需要がすべて。需要からインフレになるのは全く問題ない」(神山氏)
関連記事
- 株価3指数いずれも最高値はバブルか? コロナ前を超えてきた経済の読み解き方
米国の株価が絶好調だ。7月13日の終値では、S&P500、ダウ工業株平均、ナスダック総合指数と主要株価3指数がいずれも最高値を更新した。これは果たしてバブルなのだろうか? - 回復続く経済における3つのリスク 財政、ワクチン、貯蓄率
コロナ禍を乗り切ったかに見える経済にはどんなリスクがあるのか。日興アセットマネジメントのチーフ・ストラテジスト神山直樹氏は、財政、ワクチン、貯蓄率について、3つのリスクがあると言う。 - 【動画】米長期金利は上昇、米債務上限問題や供給網の混乱が重荷。インフレの長期化も懸念事項に
債務上限問題やサプライチェーンの混乱が重荷となり、ダウは月間で昨年10月以来の下落率となりました。先週のFOMCで量的緩和縮小の前倒しが示唆されてから、1週間を通じて米長期金利の急ピッチな上昇が目立ちました。 - 原油が驚異のマイナス価格、次に危ないのは不動産?
WTI原油先物の5月限価格の終値は、史上初めて“マイナス”37.63ドルで引けた。ただし、注意しておくべきは、今回のマイナス価格はあくまで「WTI原油先物」だけで発生したものであり、全世界の原油の価値が突如マイナスになったというわけではない。また、原油以外にもマイナス価格増加に注意すべき資産がある。それは不動産だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.