電動化とラージPFを両立する、マツダ新工場の「縦スイングと横スイング」:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
「xEV計画」と直6縦置きのラージプラットフォーム。これを進めていくためには、当然生産設備を大幅に改変しなくてはならない。普通ならば、従来設備を適宜改良して、xEVとラージに対応させるだけでいいのだが、マツダはこれを大きなチャンスに変えようと考えた。
根を下ろさないライン
今回の工場リニューアルにおいて、最も大きい変化はこのAGVを利用した仮想ラインである。従来の床にレールを設置する方法と違い。AGVは床に根を下ろさない。作業者はラインを自由に横切って、車両の右側からでも左側からでもアクセスできるし、サブラインに関しては新たな増設も自由自在である。
そして何よりハード的には汎用設備であり、車種ごとにデータを変えればどんな車種にでも対応できる。ということは、今後、モデルチェンジの度ごとに設備に改変を加える必要はない。もちろん進化のための設備変更や改善は行われるだろうが、新型対応のために強制的に変えざるを得ないということが起こらない。それはつまり今後の設備投資抑制にも効いてくるということになる。
マツダは長らく投資局面でこれらの改善を進めてきた。ここ数年の低い利益率は、ラージプラットフォームを含む第7世代商品の開発と、これまでよりさらに進んだフレキシブル生産の両方を進めるための雌伏期間であったと思う。10月1日から稼働が始まったと報道のあるトヨタと合弁のアラバマ工場も、また同じ思想で作られているはずである。これらの稼働が始まったことで果たしてマツダの業績が計画通り改善するのかどうか、期待を持って見守りたいと思う。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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