電動化とラージPFを両立する、マツダ新工場の「縦スイングと横スイング」:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
「xEV計画」と直6縦置きのラージプラットフォーム。これを進めていくためには、当然生産設備を大幅に改変しなくてはならない。普通ならば、従来設備を適宜改良して、xEVとラージに対応させるだけでいいのだが、マツダはこれを大きなチャンスに変えようと考えた。
しかし混流生産をやろうとすると、2つ問題が発生する。1つは部品だ。流れ作業では基本的にラインの脇に部品棚を持ってきて、そこから部品をピックアップして組み付けるのだが、混流生産のように多車種を作ろうとすると、車種ごとに少しずつ違う膨大な部品をラインの脇に置くのは不可能だ。なので、部品庫で別途ピックアップ作業を行う。従来は組み付け作業者が車両と一緒に流れてくる伝票を見て記憶し、棚から部品をピックアップして組み付けを行っていたのだが、ここをプレアッセンブリー方式によって改良した。
あらかじめライン上の車両の仕様を示した伝票を記憶したシステムにより、部品棚に仕込まれたランプが点灯する。部品選別者(ピッカー)は、ランプが点灯した棚から部品をピックアップしたらボタンを押してランプを消し、ピックアップした部品を部品パレットに収める。1工程ごとにこうした部品パレットを作り、ラインを流れるシャシーと一緒に部品パレットをラインに乗せる。作業者は、部品の選別から解放されて、ただ組み付けに専念できるのでミスが起こりにくく、作業も早くなる。
もう1つの問題は、部品を組み付ける大型ジグ(部品固定具)のフレキシビリティである。例えばFFの場合、エンジンとトランスミッション、デファレンシャルギヤ(デフ)は、車両組み付け時にすでに一体になっている。
しかしFRの場合には、エンジンとトランスミッションこそ一体だが、デフはリヤに組み付けなければならないし、エンジンからデフへ動力を伝えるプロペラシャフトも組み付けなくてはならない。これを車両の下で保持する台車は同じものを使えない。
マツダはこの台車を無人搬送車(AGV)に置き換えた。それも前後をそれぞれ別の2台のAGVに担わせ、電子制御でそれぞれを、シャシーの最適位置に保持させるのである。こうすることでホイールベースが異なるクルマでもそれぞれに最適な位置で部品を保持できる。例えば4気筒縦置きのロードスターと、6気筒縦置きの次期CX-8では、シャシーの基準点に対してエンジンの位置もデフの位置も違う。つまりは車両サイズの大小、ホイールベースの長短にかかわらず同じAGVを利用でき、車種が変わるたびに組立ラインのセットアップが必要ない。
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