電動化とラージPFを両立する、マツダ新工場の「縦スイングと横スイング」:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
「xEV計画」と直6縦置きのラージプラットフォーム。これを進めていくためには、当然生産設備を大幅に改変しなくてはならない。普通ならば、従来設備を適宜改良して、xEVとラージに対応させるだけでいいのだが、マツダはこれを大きなチャンスに変えようと考えた。
メインラインとサブライン
では、それを具体的にどうするか? せっかく理屈ができても実現化の手段がないと意味がない。
マツダでは、メインラインとサブラインを分離した。まずはメインラインの役割から。メインラインでは、クルマを吊(つ)り下げるハンガークレーンの耐荷重を上げた。これは言うまでもなく、従来のクルマよりずっと重くなるBEVを吊り下げるためだ。
このラインの一番の役割はタクトタイムを一定に保つことだ。例えばクルマを作る過程で、50の作業工程があったとすると、その全ての工程で同じタクトタイムで作業ができなくてはならない。ある工程では5分で、ある工程は2分では流れ作業が成立しない。一般的に工程ごとのタクトタイムは2〜3分なのだが、縦スイングを実現するためには、あらゆる車種のクルマの各工程を同じにしなくてはならない。車種ごとのラインなら、Mazda 2は2分だが、CX-8は3分でも構わないのだが、マツダのいう縦スイングを実現するためには、車種にかかわらず例外なく全ての工程を一定にしなくてはならないのだ。
けれども、例えば4気筒エンジンと6気筒エンジンでは組み付ける部品数が違うから、同じ時間になるはずがない。長い方に合わせるのは全体を遅くすることになって、生産性が落ちてしまう。それでは困る。
これを解決するのがサブラインの役割だ。概念的にいえばメインラインは縦糸、サブラインは横糸で、その交点で作業が行われる。横糸は作業必要時間に合わせて長さを変えてある。縦糸と交差するタクトタイムをそろえるためには、作業工程を分割したり、作業者を増やしたり、それでもダメならバッファを設けて多少作り置きをする。バッファが必要なほど手間の掛かるクルマは基本的に高額車両なので、生産台数は少ない。他のクルマを組み立てている間に作り貯められる。つまりメインラインのタクトタイムを基本に、サブラインの生産能力を合わせ込んで設計しているということになる。
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