「常識」という呪い──パワハラ上司になぜ部下は反発できないのか:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/4 ページ)
「権利意識が強い社員はいませんか?」と題し、部下の「常識力」のなさがパワハラ相談の増加につながっているとした毎日新聞のパワハラ防止セミナーが炎上した。確かに上司から見て、「え? これがパワハラになるの?」というケースはあるだろう。しかし、こうした「常識」をわきまえろという圧力が、助けが必要な部下たちをより追い詰めることになる──。
「全ての社員が家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さんであり、お母さんだ。そんな人たちを職場のハラスメントなんかでうつに至らしめたり苦しめたりしていいわけがないだろう」
これは厚生労働省が設置した「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」のワーキング・グループが2012年に提出した報告書の最後に紹介されている言葉です。
パワハラをゼロにしなくてはならないという「当たり前」を表すものとして、私はこの言葉を度々引用してきました。
しかし、大変残念なことにこの「当たり前」を、「常識」という至極曖昧な言葉で否定しようとするセミナーが開催されました。詳しくはこちらの記事をお読みください(「権利意識が強い社員はいませんか?」 毎日新聞社のパワハラ防止ウェビナーが物議、告知内容を変更)。
「権利意識が強い社員はいませんか? 部下にフォーカスし、ハラスメント問題を解決する! 部下の持つ『ものさし』を適正化するための『常識力』の高め方」というセミナーの告知は、瞬く間に大炎上し、主催者側が告知文を変更する事態に発展しました。
まぁ、炎上するわな、と言うのが率直な感想だし、内容の変更前後で「常識」の主語が入れ替わっているのが、かなり気になります。「部下の常識力」(変更前)→「常識だと思っていることが、若手に通じない」(変更後)。つまり、主語は「部下」→「上司」。……なんとも実に不可解です。
いずれにせよ、今回問題になった告知文は「上司目線」で語られています。実際、上司たちが「え? これがパワハラになるの?」と戸惑う気持ちは分からないでもない。
そこで、上司に知ってもらいたい「部下目線」でのパワハラを取り上げます。部下の気持ち、といったところでしょうか。
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