ASEANでモテモテだった日本の企業 その将来に漂う暗雲:何が起きているのか(3/4 ページ)
ビジネスシーンで、ASEANの有力財閥にモテモテだった日本企業。誠実な姿勢が評価されていたが、安心していられない事態になっていると筆者は主張する
決められない日本企業
そんな日本企業に死角はないのだろうか? 実はある。そしてそれは、今後のモテ度数に大きく影響を及ぼす決定的なものだ。短的にいうと、日本企業の決断に要する時間の長さだ。もしくは決められない体質だといっても良い。ASEAN側はオーナー企業であり、大株主(つまりオーナー)が経営者を兼ねているケースが多い。事業の遂行に際し、彼らは即断即決で意思決定が非常にスピーディーだ。一方で日本側はサラリーマン体質で、何かにつけて本社決済を取らなくてはならないことが多い。大企業ほどその傾向が強い。現地企業がよく驚くのが、現地法人社長の権限の小ささである。何かにつけて本社におうかがいを立てるので、「彼は社長ではないでのはないか」と疑われるのだ。その本社でもオーナーがいるわけではなく、ボトムアップ方式の稟議制なので、これがまた決断を下すまでに時間がかかる。このような決断の遅さが、提携相手の大きな不満の種なのだ。
決められない日本。ここに私は大いなる不安を感じる。日本企業の競争力を削ぎ、有望なASEAN市場でのプレゼンス低下を招きかねないという不安だ。それを暗示させるひとつの例をお示ししよう。また拙著からの抜粋で申し訳ないが、下の図を見てほしい。
この図で解説しているのは、CP、サハ、セントラルという日本企業と非常に関係の深いタイの大財閥が、Eコマースとそれに付随するファイナンスの分野で、ことごとく中国企業と手を組んでしまったという事例だ。今でこそこうした分野は、多くの人が利用する「日常」のビジネスとなった。しかし、これらが勃興してきたときは、不確実性の高い新興事業と見なされていた。
ITやデジタルの世界はとかく動きが早く、いかに早く業界のスタンダードを打ち立てるか、つまり陣取り合戦で勝つかが事業の成否に決定的に影響する。そのためには、事業としての経験値が少なくて不確実性が高い中でも経営判断を行っていく必要がある。デジタル時代の幕開けにあって、ASEAN財閥は新しい事業を求めていた。不確実性が高いこのEコマースの例は、果敢にリスクを取って投資を実行した中国企業とフィットした。そして、このような提携の形に帰着したものだといえる。日本企業はこれらタイの3大財閥と非常に関係が深いのだが、このような新興ビジネスでプレゼンスを確立できなかったことは、非常に象徴的であると私は危惧するのである。
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