パワハラ加害者に「すぐに厳しい処分を!」と張り切る企業を襲う、思わぬ訴訟リスクとは:弁護士・佐藤みのり「レッドカードなハラスメント」(2/2 ページ)
裁判所がパワハラ事案を違法と認めたが、雇い主が加害者に下した懲戒解雇処分は「無効」と判断した──そんな事例があります。なぜ、そんなことになるのでしょうか。
裁判所はパワハラを違法と認めたが、懲戒解雇は無効と判断 なぜ?
ここで、ハラスメント加害者への懲戒解雇処分が無効となった事例をご紹介します(前橋地裁2017年10月4日判決)。
ある国立大学の教授Aは、講師Bに対して、「実験のペースを上げてくれ」「実験データの数が少ない」「最近の業績が少ない」「実質8時間も働いていない」などと指摘しました。その際、机をたたくなどの行動を伴うことがありました。
また、教授Aは、助教Cに対して、実験の失敗を理由に、午後9時から翌日の午前1時まで説教し、「研究者失格である。大学院生以下である」などと述べました。他にも転職を勧めたり、「実験やったことあるのか」などと言いながら長時間叱責したりしました。
大学は、講師Bと助教Cに対するハラスメントを理由に、教授Aに対し「諭旨解雇処分」を下すことを告げたところ、教授Aは諭旨解雇処分に関する文書をいったん持ち帰ったうえで、応諾するか検討したい旨を述べました。すると大学は、その教授Aの言動をもって、諭旨解雇の応諾を拒否したものと判断し、その日のうちに「懲戒解雇処分」を下しました。
裁判所は、教授Aの講師B、助教Cに対する言動を、いずれも違法なパワーハラスメントと認めましたが、「懲戒解雇処分」は無効としました。
教授Aの行為に対しては、ハラスメントの内容や回数は限定的であり、いずれも業務上の必要性を全く欠くものとは言い難く、ハラスメントの悪質性が高いとはいえないとされました。それなのに大学側が、即時に労働者としての地位を失い、大きな経済的・社会的損失を伴う懲戒解雇という処分をしたのは、懲戒事由との関係で均衡を欠き、社会通念上相当性がないと判断されたものです。
本件では、「諭旨解雇」が即日「懲戒解雇」に切り替えられており、手続き上の問題も認められ、大学側には慰謝料15万円の支払いも命じられました。
ハラスメントを放置して、加害者に対してなんら処分しないことも問題ですが、「ハラスメントは絶対的悪である」との考えから、あまりに強い制裁を科すことも問題です。
処分を検討する際は、問題となるハラスメント行為に見合っているか、他の類似事例との均衡はとれているかなどをよく考えましょう。また、処分対象者の意見を聞く機会を設けるなど、手続きも含めて慎重に進めていくことが必要です。
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