オーケーに関する2つの誤解 関西スーパーが守ったものと失ったものとは?:小売・流通アナリストの視点(1/4 ページ)
買収劇で渦中のオーケーと関西スーパー。小売・流通業界に筆者は、オーケーに関する「2つの誤解」が問題を複雑にしていると指摘する。加えて、関西スーパーが守ったものと失ったものを解説することで、今回の騒動をひもといていく。
関西圏ではなじみの深い食品スーパー、関西スーパーマーケットが地元大手流通グループで筆頭株主でもある、エイチ・ツー・オー リテイリング(H2O)との経営統合を進めようとしていたところ、第2位株主となっていた首都圏の有力食品スーパー、オーケーが「待った」をかけたことで、すわ争奪戦勃発として業界は騒然となっている。
阪急阪神百貨店を中心として食品スーパーの阪急オアシス、総合スーパーのイズミヤを傘下に持つH2Oリテイリングは、大阪を中心として「関西ドミナント化計画」を推進する方針をかねて打ち出しており、その流れからしても、阪神間地域を地盤とする関西スーパーとの統合は自然な流れと見られていた。ところが、関西にはなじみのない首都圏のディスカウントスーパーであるオーケーの異議申し立てがあったことで状況は一変したということなのだが、地元の反応は「何で関東のスーパーが?」という声も少なくないようだ。
その背景は単純で、これからの人口減少による市場縮小を踏まえて、小売業界における大都市マーケットの争奪戦が勃発している、ということに尽きるだろう。ちなみに大都市マーケットとは、主たる来店手段が公共交通(鉄道、バス、徒歩)である地域を指し、ざっくりいって首都圏と京阪神の都市部にしか存在しないことをまず前提としていただきたい。
食品スーパーは大まかにいえば、都市型と郊外ロードサイド型に2分されており、今後、人口減少を考慮すれば都市型立地の方が将来的な市場環境に恵まれている。ゆえに、どこの食品スーパーも大都市に店舗網を広げたいと考えているのだが、立地タイプの違う場所への進出が難しいこと、また、都市部には新規に出店できる安い空き地などほとんどないことから、都市部での勢力拡大には相当な時間とカネが必要だとされている。となれば、存在感のある都市型企業をM&Aによって傘下に入れる、という選択肢しかないという結論になる。
次の図表は首都圏と京阪神の食品スーパーの売り上げ上位企業を抽出したものだが、これを見ると「(1)都市型で相応のシェアを持っている」「(2)上場企業である」「(3)大手系列ではない」というM&Aが可能な対象先企業は首都圏、近畿圏あわせて、関西スーパーしかないことが分かるはずだ。
要するに都市型食品スーパーの首都圏大手であるオーケーが市場からカネの力でM&Aできる企業は、大都市圏に関西スーパーしかないから今回の騒動に至ったといえる。この点についていえば、業種こそ異なるが、ホームセンターである島忠にニトリが目を付け、DCMホールディングスとの争奪戦を戦って手に入れた事例も、ほぼ同じ背景だといっていい。
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