オーケーに関する2つの誤解 関西スーパーが守ったものと失ったものとは?:小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)
買収劇で渦中のオーケーと関西スーパー。小売・流通業界に筆者は、オーケーに関する「2つの誤解」が問題を複雑にしていると指摘する。加えて、関西スーパーが守ったものと失ったものを解説することで、今回の騒動をひもといていく。
インストアオペレーションは、本来のチェーンストア理論からみれば、店舗ごとに加工場と加工人員を抱える非効率な手法であり、実際にも日本の食品スーパーの収益力は決して高いとはいえない。ただ、鮮度を重視する日本の消費者への付加サービスとしては相応の効果を発揮しており、その結果これまで日本の食品スーパー業界は海外ほどの寡占化が進まなかった。
ある時期、日本に世界的大手スーパーがいくつも参入したが、成功しなかったのは、こうしたサービスを当たり前だと考える日本の消費者を相手にして、目標とする収益確保ができなかった、という解釈も可能だろう。一見、非効率なインストアオペレーションは、効率重視のグローバルリテーラーの理解を超えた手法であり、それを是とする日本のガラパゴス化した市場は長居する場所ではないと判断したと考えられる。
過去にもインストア加工の非効率を嫌い、センター集中加工に移行することでコスト削減を図るという戦略をとったスーパーがいくつもあったようであるが、日本の消費者の確固たる支持を得るまでになった企業はいなかった。現在ではインストアオペレーションは温存しつつ、ITや冷蔵保存、パッキングなどの技術革新を取り入れたプロセスセンターとの併用ができる企業が、消費者の支持と収益を両立するようになっている。関西スーパーの争奪戦の結果がどうなろうとも、関西スーパーの遺伝子は日本の食品流通の歴史に受け継がれていくことは間違いないのだろう。
今が業界再編の好機か
関西スーパーを巡る争奪戦は、株式の4.75%を保有する第3位株主である伊藤忠食品が質問状を呈したり、米国議決権行使助言会社大手が反対を推奨したりと、いまだその行方は混沌としている。いずれにしても、コロナ禍が収束する兆しが見えるようになった今、こうした大都市マーケットの確保を狙った業界再編は、これから増えてくるかもしれない。
さまざまな「不要不急」産業が大きな制約を課せられたコロナ禍において、生活必需品小売業とされた、食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンターなどの巣ごもり需要関連企業は、大いに特需の恩恵を受けていた。しかし、その狂騒が落ち着き始めている今、こうした業態では既に「特需」反動落ちが顕著になりつつある。アフターコロナになれば、覆い隠されてきた2年分の市場縮小の影響が、一気に押し寄せる可能性もあることは、業界の誰もが理解しているはずだ。裏返せば、巣ごもり需要の恩恵を受けた企業群の多くにとって、直近決算がピークを迎え、つまり企業価値が最高となり、M&Aのタイミングとなる可能性が高いということだ。「コロナ後」が見えたこれから、生活必需品関連の小売再編のニュースを見かける頻度が増えていくことになると予想する。
関連記事
- どうなる「関西スーパー」争奪戦 勝負に出た「オーケー」に“危うさ”を感じてしまう理由
エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングが関西スーパーを買収すると宣言。オーケーも同スーパーの買収をすると表明した。オーケーにはどんな事情があるのだろうか? - 「国道16号」を越えられるか 首都圏スーパーの“双璧”ヤオコーとオーケー、本丸を巡る戦いの行方
コロナ禍で人口流出が話題となる首都圏だが、「国道16号線」を軸に見てみると明暗が大きく分かれそうだ。スーパー業界も16号を境に勢力図が大きく変わる。そんな首都圏のスーパー業界勢力図を、今回は解説する。 - イオンとヤオコー、スーパー業界の優等生がそれぞれ仕掛ける新業態の明暗
イオングループのスーパーにもかかわらず、トップバリュ製品を売らない新業態「パレッテ」。高品質が売りのヤオコーが新たに仕掛ける、低価格業態「フーコット」。両社の狙いはどこにあるのだろうか? - 元西友のプロマーケターがうなる、オーケーストアの差別化戦略
西友、ドミノ・ピザジャパンなどでCMOを務めた“プロマーケター”の富永朋信氏と、東急ハンズ・メルカリなどでCIOを務めた長谷川秀樹氏が対談。富永氏が語る、オーケーストアを研究すべき理由と、小売りに求められる「差別化戦略」とは──? - 「次なる島忠」は? 買収劇から透けて見えた、ニトリの壮大な野望
島忠争奪戦に勝利したニトリ。小売・流通アナリストの中井彰人氏によると、どうやらホームセンター業界だけでなく、まだまだ狙いがありそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.