オーケーに関する2つの誤解 関西スーパーが守ったものと失ったものとは?:小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
買収劇で渦中のオーケーと関西スーパー。小売・流通業界に筆者は、オーケーに関する「2つの誤解」が問題を複雑にしていると指摘する。加えて、関西スーパーが守ったものと失ったものを解説することで、今回の騒動をひもといていく。
国内スーパーマーケットの創成期である1960年代に関西スーパーが開発した、生鮮品の流通加工を店舗のバックヤードで行い、その日にパック詰めしたものをその日に売り切るという手法は、鮮度を重視する日本の消費者の高い評価を得てきた。この発明によって関西スーパーは関西地区の有力食品スーパーへと成長するのであるが、この成功事例を積極的に他社にも公開し、さらには教えを請われれば他社の社員を受け入れて教育することまで厭わなかった。
このうちの1社がオーケーであるというのが、前段の話につながってくる。こうした関西スーパーのオープンなノウハウ伝授によって全国に拡がっていったインストアオペレーションは、日本型食品スーパーのスタンダードとなっていき、現在、各地に割拠する有力な食品スーパーのほとんどがこのオペレーションをベースにして大きくなった。関西スーパーこそが日本型食品スーパーの祖なのである。
その結果、何が起こったかといえば、全国にインストアオペレーションが普及したことで、食品スーパーの鮮度管理は、全体として大きくレベルアップしたのであるが、皮肉なことに関西スーパー自体の圧倒的な優位性は失われてしまった。
その上、時代を経ると技術革新と工夫によってさらに改良を加えた弟子筋の企業群が成長し、関西スーパーを凌駕する存在としてシェアを拡大するようになっていく。インストアオペレーションの発明者である関西スーパーはこの方式を金科玉条として墨守したという面もあって、その後のオペレーションの進化に関して、後塵を拝したことも否めない。今や「普通」の大手スーパーとなった関西スーパーは堅調な業績は保ったものの伸び悩み、にわかに進む業界再編の主役とはなり得ない存在であることも確かである。
しかし、関西スーパーが全国のスーパーに伝授した日本独特のオペレーションは、鮮度管理という業務上の改革にとどまらない足跡を残していると考えている。それは、日本の食品流通をガラパゴス化することによって、巨大なグローバル流通大手から日本市場を防衛する基礎になった、という点だ。
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